アルデバラン

一般社団法人アルデバラン

スウェーデン,ストックホルム,トーシュ・バッケ(特別高齢者住宅)

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約12分

海外視察レポート

スウェーデン ストックホルム 「トーシュ・バッケ」

特別高齢者住宅(注1)/サービス付き高齢者住宅

館長アン・ルイスさん(写真右から1人目)

一緒に案内をして頂いた事務所アシスタント、スサーヌさん(写真左から2人目)

2016年3月14日(月) 午前9時30分~11時30分

~ルイス館長のお話~

ここは「トーシュ・バッケ」と言います。「トーシュ」というのは丘、「バッケ」というのはバイキング時代の王様の名前です。

この施設は少し特殊で、「サービスハウス」と「特別高齢者住宅」との複合型になっている3階建ての施設です。

普通は分かれているところが多いのですが、最近はこうした複合の施設を望む人が増えています。

「サービスハウス」では、個人が私営の住宅会社と契約をしてアパートを借りている形ですので、ここに住んでいる人たちは、街中のアパートや住宅に暮らし、ホームヘルプサービスを受けるのと同じような感じで、ここでサービスを受けています。

もう一方の「特別高齢者住宅」に関しては、24時間常に看護師が勤務しておりケアスタッフもいます。そして、医師の回診が1週間に一回あります。

廊下に並ぶ個人住宅のドア

例えば一般の特別高齢者住宅の場合は、出入り口などが閉鎖されていて特別なユニットになっていることが多いですが、こちらの特別高齢者住宅は、サービスハウスと同じように各自お部屋があるタイプになっています。

ドアの向こうは個人の部屋

ですから特別高齢者住宅の人たちも、共有の食堂などで食事をするのではなく、1階にあるレストランに下りてきて食事をします。自分でレストランに下りられない方は、ケアスタッフが援助し、食事介助を受けることもできます。希望があれば独自の食事を作ってもらうことや、レストランから配達してもらうこともできます。

空き部屋(個人で家具を入れる)

ケアスタッフは部屋に入る際に必ずドアをノックします。高齢者が住んでいる部屋は鍵がかかっています。しかし、施設内の他のスペースは非常にオープンになっていますので、家族からもとても評判がよく、人気のある施設となっています。

レストランの横には普通のコーヒーショップや、インターネットを学んだりPCを使用できたりするカフェや、足の治療室(フットサロン)もあります。

インターネットカフェは、一般の高齢者も利用できるようになっています。高齢者がインストラクターとしても仕事をしています。

OutlookだとかExcelだとか、ネットバンキングの支払い方法なども指導してくれます。

また、高齢者だけでなく外部の人々も利用できるようになっています。そうすることで外からの隔たりがなくなり、自分もいつかはここに移り住むのだなと自然に感じ受け入れることができるようになりますし、この建物自体に活気も生まれ人気となるのです。

現在この施設への入居希望者は待機期間が1年になっています。1年待てないという人たちは、他の施設もたくさんありますし、ショートステイもあります。また、他の空いているところへ入って、ここを待つという方もいます。特別高齢者住宅の入居については、ニーズ査定を市が行います。市の責任の元、個人の希望を聞きながら施設入所が決められます。待ち時間が1年間あると話しましたが、ニーズの高い方が優先されて移ってくるということがあります。


この部屋は一つの活動の場として使われています。様々な活動がここで行われます。

クイズだとかビンゴだとか、夜はパブなどにもなります。活動の月間スケジュールが施設から発行され、ここに住んでいる高齢者に配布されます。

こちらの施設には認知症のグループホームというのは入っていません。先ほどお伝えしたように、「特別高齢者住宅」と「ケア付きの高齢者住宅」のミックスであり、ニーズが変わることによって、サービス付き高齢者住宅から特別高齢者住宅にくくりが変わり、サービスの時間限度額が変更することにより、提供時間が変わるだけで部屋を変わる必要はないです。

ここにある71居室、71名の高齢者たちが部屋を変わらずに終末期まで過ごせるわけです。唯一移らなければいけない状態の人というのは、認知症が非常に悪化してしまい、徘徊したり、行動障害が著名になった方は、他に移らなければいけなくなります。

ここでは、かなり介護度の高い方でもケアを受けることができますが、24時間目が離せないような症状や認知症が重くなったりした場合には、他に移らなければいけなくなります。


私からの質問に対しての回答
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宮本芳恵
Q.こちらでもお一人お一人のケアプランが作成されているのですね?

はい、そうです。

ここのユニークさというのは、高齢者の皆さんが、お元気な頃から移り住んでいらっしゃるので、その方のことをよく理解することができます。いわゆる馴染みの関係が出来上がっているのです。ですから、状態が悪くなっても介護の人たちがサポートしやすいのです。

ある方は、部屋の冷蔵庫からいつも食べ物を出してしまうのですが、そうすると食べ物がいたんでしまいます。ですから、スタッフの冷蔵庫に預かって、そこからご本人と必要なものを一緒に取り出すという個別の対応をしています。

 

建物の構造として、1階にも2階にも庭があるので、簡単に庭に出ることができます。

多くの方は一軒家に住んでいたので、庭の手入れだとか野菜の栽培だとかをされていた方が多くいらっしゃいます。それを継続することができるようになっています。春になると、庭づくりのグループを作ります。

夏になると、太陽の下で過ごす時間が多くなります。スウェーデンではよくダンスやティーパーティをします。

 

ここに住んでいる高齢者たちは、必ずコンタクトパーソン(注2)を持っています。高齢者1人に対してのケアスタッフが1人であるか複数であるかは、その人の重症度によって変わります。なぜコンタクトパースンを持つかというと、全人的に一人の方をケアする時に、総体的にその人に関して責任をもつためにそのようになっています。例えば家族とのコンタクトを取ったり、メガネや補聴器を作成したり、すべて責任を持つわけです。

ここは1階、2階、3階に分かれていますが、階によってミーティングが開かれます。そのミーティングの時に、必ずそのコンタクトパーソンが、この人はこういうふうにしてケアを行っていると説明します。もし夏休みなど取って戻ってきた時に、それが行われていないと、なぜそうならなかったのかということを必ずそのミーティングで取り上げなければいけないのです。

給与は、個別の能力に合わせた給与設定になります。コンタクトパーソンの任務をどのくらい上手に行っているかどうか、明確にその人が優れた仕事行っていれば給与を上げることができます。よい仕事をしていない場合は、給与は上がりません。

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Q. 評価ツールがあるのですか?

昔はそういうツールを使っていましたが、今はそれを行っていません。

スウェーデンの場合には、職業に関しての組合があるのです。雇用者側と現場の労働者とで給与をどのくらい上げるかを決めます。それはあくまで枠があって、その枠内をどのように分配するかは館長の仕事です。私は、1年に1度現場の人たちがどのように進んでいきたいかを話し合い、その時に決めていきます。

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Q.何年も上がらない人もいますか?

給与は常に上がります。昇給がゼロの人はいません。基本給にあたりメインの部分というのは、コンタクトパーソンとしてどのように仕事をしているかが注目されます。「トーシュ・バッケ」は一つの会社と考えるわけです。職員たちは、館長が気付かない部分で新しいアイデアを提案しなければいけません。

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Q.館長さんの下にも、日本でいうと「主任」というポジションがありますか?

私の下にはそれぞれの階に三人の正看護師の責任者がいます。その正看護師は現場の責任者とともに、医療面においても責任者です。主任というポジションとは違います。

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Q.雇用状況についてはいかがですか?

こちらには正社員47名のケアスタッフが雇用されています。男性は少なくて、正看護師の一人が男性です。

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私の勤務する介護施設では、介護職の半分以上は男性です。どのようにして男性を獲得しているのですか?

47名の他、パートの方が30名くらいいますが、その中にも男性はいます。男性を入れたいのですが応募も少ないです。ここのスタッフが夏休みを取る場合の代替えには、男性がよく入ります。男性は必要だと思います。皆さんのところはどうですか?

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日本の事情としては、介護職が非常に不足しています。介護の求人数が多いためなのか、男性でも介護職に応募する人が多くなってきたのかと思います。以前は圧倒的に女性が多い時代がありました。しかし、ここの准看護師のようにベースの知識が全くない人も入ってくるので、施設で教育しなければなりません。

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Q. 日本では介護福祉士と言う国家資格がありますが、スウェーデンではどうですか?

こちらで働くスタッフはみな准看護師の資格を持っています。昔から働いている補助看護師も数人いますが、継続して教育を受けています。新採用の場合は全て准看護師です。どの人が優れているかということは資格でははかれませんが、ベースになる知識は必要であるため、准看護師を採用しています。

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日本では、 現場での教育をする時間を確保することが難しいので、准看護師の方が配置されていると言うのは我々からすると羨ましいです。

もちろん温かい思いやりがあるなどの適応性がある人でなければいけません。けれども高齢者医療に関しての知識が必要ですね。また、その方を受け止める、認知するエンパシー(共感力)を持っていなければいけない。それからここで仕事をする場合には、例えばその方のお部屋に入って、「今日はシャワーを浴びましょう。」ではなく、その方がどういった人生を歩んできたのか、どういった職業をしてきたのか、どういったことを望んでいるのかなど、そういったことを知った上で、ケアをすることが大切であると思います。

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お話を伺うと、概要・制度・ケアの考え方は、スウェーデンと日本ではあまり変わりがないと思われるのですが、日本ではまだまだ現場での苦労は絶えませんし、技術・知識の備わった人材を確保することが難しい状況です。現場の教育に苦労しています。

ベースになる知識は大切ですが、さらに職場の教育としては、認知症の知識、技術として移動・保清・投薬・安全対策など、多くの知識を教育研修していかなければいけません。それからIC、コンピューターの操作等の技術も必要です。というのはチャートなどを全てコンピューターで操作しなければいけないからです。職場で学ぶこともできますし、自宅に戻ってウェブで教育を受けることもできます。スタッフが学びを深めれば、給料につながるのです。

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日本では職員に対して虐待防止の教育が必須です。またそれと同時に虐待防止策として、スタッフのストレス対策も講じなければいけないことになっています。こちらではどうですか?

現場のストレスはどこにでもある問題です。しかしここには、各階にスタッフのコントロールを担当する人がいます。例えば、「自分はこの時間内にこの仕事が終わらなければいけないのだけれども、とても時間がかかっている」という場合に、それはストレスになるわけですね。そうするとスタッフコントロールの人に連絡をして「私は間に合わない。」と言うと、調整してもらうことができるのです。このようなコントロールを常に行っています。

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Q.日本では重度の認知症を預かる一つのフロアで50人の利用者に対してスタッフが4人ということもあります。どう思われますか?

絶対に不可能です。それでは十分なケアができないですね。その方たちは、ベッドから起き上がる事はできるのですか?

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7時からの食事のために、早朝から排泄介助を始める必要があります。その後、整容・離床介助を行い、朝食に間に合わせています。夜勤は2人体制です。

こちらでは、それは絶対に不可能です。特に認知症の場合には、こちらでは配置が多くなっているのです。

24人の介護が必用な高齢者に7人配置されています。24人全てモーニングケアが必要かというとそうではありません。ですから、その数での対応は、考えられないですね。それを決めている人をこちらにお呼びしたいです。せめて一日中、2日間は官僚に見てもらわなければいけませんね。

ここでは絶対にそういう事は起こりえません。責任者が非常に叩かれるでしょう。

全ての人の生きる権利を保障しなければいけません。そのためにはやはりお金が必要です。日本は、アメリカタイプになっていますね。

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Q.日本では、年を取ると役立たずだ、仕事を引退するともう人生は終わってしまったとういような事をおっしゃる高齢者もいらっしゃいます。また子供の世話になるのが当たり前と言うような感覚を持っている高齢者も中にはいらっしゃいます。こちらの高齢者の意識はいかがでしょうか

スウェーデンでは、まず子供たちが自分たちの面倒を見てくれるとは考えないでしょう。私は今66歳です。私が退職しても人生を継続していくでしょう。20年前には、退職するときは年寄りと感じていたんですが、今では65歳が退職となりましたが、、歳をとったなとは考えていません。まだ元気で、今までと同じ人生を生きていくことができます。病気になったときには問題が生じるでしょうけど・・・

人は、亡くなるまで生きる権利を持っています。誰かが自分を見てくれる、助けになる人がいる。

外見は老人でも、中身は子どもを育てたり、恋をしたり、そうした人間が中にいるのだということ

を忘れてはいけない。それに対してのケアなのです。

人生の最終段階を看る事はとても大切なことだと思います。「今まで生きてきたように、生きることが出来る」このことが大切です。

追記

(注1)特別高齢者住宅:1992年の「エーデル改革」(他の施設訪問時に説明)によって、老人ホーム、ナーシングホーム、サービスハウス、グループホームなどの施設はすべて「特別な住居」という言葉に統合された。

(注2)コンタクトパーソン:北欧に多く見られるサービスで、介護を必要とする障害者や高齢者の外出に付き添ったり、介助を行う人物のことをいう。利用者の趣味や嗜好、さまざまな情報をもとに、親近感のもてる人物を選定するということ。

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