この連載では、次のようなテーマを一つひとつ掘り下げています。
- 呼吸のふしぎ ― 酸素と二酸化炭素の物語
- 心臓と血管 ― 24時間働き続けるポンプ
- 消化の冒険 ― 食べ物がエネルギーになるまで
- 脳と神経 ― 私たちの「司令塔」
- 交感神経と副交感神経 ― 自律神経のバランス
- 筋肉と骨 ― 体を動かす精密な機械
- 尿ができるまで ― 腎臓の小さなろ過装置
- ホルモンと内分泌 ― 体内のメッセンジャー
- 免疫と防御 ― 体を守る見えない軍隊
- まとめ編:体を知ることは自分を大切にすること
今回はその第8回、「ホルモンと内分泌 ― 体内のメッセンジャー」 についてです。
体の中を静かに走り回る「伝令」
私たちの体の中では、毎瞬毎瞬、たくさんの情報がやり取りされています。
神経が「電気信号」で一気に指令を伝えるのに対し、ホルモンは「血液に乗ってゆっくり全身に届くメッセージ」というイメージ。
ホルモンは目に見えず、音もしませんが、
- 成長
- 代謝
- 睡眠
- 感情
- ストレス反応
- 生殖
といった、人生そのものに関わる働きを担っています。
ホルモンはまさに、体内を巡る静かなメッセンジャーなのです。
内分泌とは何か
ホルモンを血液中に分泌する仕組みを「内分泌(ないぶんぴつ)」といいます。
分泌されたホルモンは、血流に乗って標的となる臓器へ運ばれ、必要な働きを指示します。
ホルモンを分泌する主な臓器には、
- 視床下部
- 下垂体
- 甲状腺
- 副腎
- 膵臓
- 性腺(卵巣・精巣)
などがあります。
これらはそれぞれ勝手に動いているわけではなく、チームとして連携しています。特に「視床下部―下垂体―各内分泌腺」の連携は、ホルモンの司令系統の中心です。
ホルモンは「量」と「タイミング」が命
ホルモンの働きは、とても繊細です。ほんのわずかな量の違い、分泌される時間帯のズレだけで、体調や気分は大きく変わります。
たとえば――
- 夜に分泌されるメラトニンは、自然な眠りを導く
- 朝に増えるコルチゾールは、体を目覚めさせ活動モードにする
このリズムが崩れると、「眠れない」「朝がつらい」「一日中だるい」といった不調が現れます。体内時計とホルモンは、切っても切れない関係なのです。
私たちの身近なホルモンたち
<成長ホルモン>
子どもの成長だけでなく、大人にとっても重要なホルモン。睡眠中に多く分泌され、筋肉や骨、皮膚の修復を助けます。「よく眠ること」が若さと回復の鍵なのは、このためです。
<インスリン>
血糖値を下げる働きを持つホルモン。食後に分泌され、血液中の糖を細胞に取り込ませます。
インスリンがうまく働かないと、糖尿病につながります。
<アドレナリン・ノルアドレナリン>
緊張や興奮時に分泌されるホルモン。心拍数を上げ、集中力を高め、「いざ」というときの体を作ります。ただし出すぎると、疲労や不安の原因にもなります。
<セロトニン>
心を安定させるホルモン。日光を浴びたり、リズムのある運動をしたり、人と話すことで分泌が促されます。不足すると、気分の落ち込みにつながりやすくなります。
ストレスとホルモンの関係
ストレスを感じると、副腎からコルチゾールというホルモンが分泌されます。これは体を守るためのホルモンですが、長期間多く出続けると・・・
- 免疫力の低下
- 血糖値の上昇
- 睡眠障害
- 気分の不安定
といった影響が出てきます。
つまり、ホルモンは「助けにもなり、負担にもなる」存在。だからこそ、ストレスを溜め込みすぎない生活がとても大切なのです。
リラックスがホルモンを整える
リラックスしたとき、副交感神経が優位になり、
- セロトニン
- オキシトシン
- メラトニン
といった“回復系ホルモン”が分泌されやすくなります。
ぬるめのお風呂、深呼吸、自然の中を歩く時間、誰かとの安心できる会話・・・これらはすべて、ホルモンバランスを整える行為です。「何もしない時間」は、決して無駄ではありません。体の中では、静かに修復と調整が進んでいるのです。
年齢とともに変わるホルモン
ホルモンは年齢とともに変化します。成長期、思春期、成熟期、更年期――それぞれの段階で分泌のバランスが変わります。
特に更年期は、ホルモンの急激な変動により、
- ほてり
- 動悸
- 気分の波
- 不眠
などが起こりやすくなります。これは「心が弱い」のではなく、体の変化による自然な反応です。体の声を知り、受け止めることが何より大切です。
ホルモンを味方につける生活習慣
- 朝日を浴びる
- 食事の時間を整える
- 良質な睡眠をとる
- 軽い運動を習慣にする
- 一人で抱え込まない
これらはすべて、ホルモンにとって「働きやすい環境」をつくる行動です。
特別なことをしなくても、生活のリズムを整えるだけで体は応えてくれます。
まとめ:ホルモンは体からの手紙
ホルモンは、体が私たちに送る“手紙”のようなもの。疲れたら「休んで」と知らせ、危険なときは「守るよ」と働き、成長や回復のタイミングを静かに教えてくれています。
体調や気分の変化を、「年のせい」「気のせい」で片づけず、「今、体は何を伝えようとしているのかな」と耳を傾けてみてください。体を知ることは、自分を責めないこと。そして、自分を大切にする第一歩です。
なお、この解剖生理学シリーズは連続ではなく、他の医療・福祉や生活に役立つテーマの記事も挟みながら進めていきます。そのため「ちょっと間が空いたけれど、次のテーマがきた!」という感覚で、気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。
次回は第9回、「免疫と防御 ― 体を守る見えない軍隊」。
風邪や感染症、アレルギー、がん予防にも関わる「免疫」の不思議な世界を、やさしく解説していきます。




