この連載では、次のようなテーマを一つひとつ掘り下げています。
- 呼吸のふしぎ ― 酸素と二酸化炭素の物語
- 心臓と血管 ― 24時間働き続けるポンプ
- 消化の冒険 ― 食べ物がエネルギーになるまで
- 脳と神経 ― 私たちの「司令塔」
- 交感神経と副交感神経 ― 自律神経のバランス
- 筋肉と骨 ― 体を動かす精密な機械
- 尿ができるまで ― 腎臓の小さなろ過装置
- ホルモンと内分泌 ― 体内のメッセンジャー
- 免疫と防御 ― 体を守る見えない軍隊
- まとめ編:体を知ることは自分を大切にすること
今回はその第7回、「尿ができるまで ― 腎臓の小さなろ過装置」 についてです。
体の「きれい」を守る腎臓
私たちは日々、知らないうちに体の中にさまざまな老廃物をため込んでいます。食べ物をエネルギーに変えた後の“燃えかす”、細胞が活動するうえで出る不要物、余分な水分、塩分。
これらが体にたまり続けると、血液が濁り、体の機能はどんどん低下してしまいます。そんな“不要物”を静かに、しかし確実に取り除いてくれている臓器・・・それが腎臓です。
腎臓は腰の少し上あたりに左右1つずつある、握りこぶしほどの大きさの臓器。その中では、まるで超高性能の浄水器のように血液がろ過され、必要なものは体に戻され、不要なものだけが「尿」として排出されます。腎臓は、私たちの体の“きれい”を保つための名脇役なのです。
腎臓はなぜ重要なのか?
腎臓の働きは単なる「尿づくり」だけではありません。
- 体内の水分量を調整・・・腎臓は、体に必要な水分はしっかり残し、余分な水分だけを尿として外に出しています。暑い日やたくさん汗をかいた日は尿の量を減らし、逆に水分を多くとった日は尿を増やすなど、体の状態に応じて細かく調整しています。
- 血圧をコントロール・・・腎臓は血液量や塩分量を調整することで、血圧を安定させています。さらに「レニン」というホルモンを分泌し、血管を収縮させたり広げたりする仕組みに関わっています。腎臓の働きが低下すると、高血圧になりやすいのはこのためです。
- 電解質(ナトリウム・カリウムなど)を調整・・・ナトリウムやカリウムは、筋肉の動きや神経の伝達に欠かせないミネラルです。腎臓は、これらが多すぎても少なすぎても体に悪影響が出ないよう、尿中に出す量を細かく調節しています。心臓のリズムを守るうえでも重要な役割です。
- 血液をつくるホルモン(エリスロポエチン)を分泌・・・腎臓は「エリスロポエチン」というホルモンを出し、骨髄に「赤血球をつくってください」という指令を送っています。腎臓の働きが弱ると、このホルモンが減り、貧血になりやすくなるのはそのためです。
- 骨を強く保つビタミンDを活性化・・・食事や日光で体に入ったビタミンDは、そのままでは骨に働けません。腎臓で「活性型ビタミンD」に変換されて初めて、カルシウムの吸収を助け、骨を丈夫に保つ役割を果たします。腎臓は骨の健康にも深く関わっているのです。
このように、生命維持に欠かせない働きをたくさん引き受けています。
「ネフロン」尿をつくる小さな工場
腎臓の中には、ネフロンと呼ばれる“尿をつくる工場”が、片方の腎臓に約100万個あります。
つまり左右合わせて約200万個。これほど大量の“ろ過装置”が、24時間休まず働き続けています。
ネフロンは次の2つから構成されています。
- 糸球体(しきゅうたい):血液をろ過する場所
- 尿細管(にょうさいかん):必要なものを再吸収し、不要物だけを尿にする場所
この2段階のプロセスによって、尿が完成していきます。

尿ができるまでの旅
では、血液の“浄化”の旅を追ってみましょう。
① 腎臓に血液が流れ込む
心臓から送り出された血液が腎臓に到達します。
腎臓には大量の血液が流れ込み、なんと 1日に約180リットルもの血液がろ過されます。
② 糸球体で「ろ過」
丸い毛細血管がぎゅっと集まった糸球体は、まるで細かい網のよう。
ここで、水・塩分・尿素などの老廃物・ブドウ糖やアミノ酸などの小さな物質が血液からいったん“こし出され”、原尿(げんにょう)という液体ができます。
この段階では、とてもじゃないけれど「捨てられない」大切な物質までこし出されています。
③ 尿細管で必要なものを回収
尿細管は、細く長い管で、ここが“選別工場”のメインステージ。
原尿からブドウ糖・アミノ酸・必要な電解質・水分などを、必要なだけ再吸収して体に戻します。
この調整が驚くほど精密で、私たちが飲む水の量や塩分量、体の状態によって、再吸収の割合を瞬時に変えています。
④ 尿の完成
再吸収されなかった残りの液体が、「尿」として腎盂(じんう)→尿管→膀胱へと運ばれます。1日に180リットルもろ過された血液から作られるのは、最終的にたった 1〜2リットル の尿。精密な調整が行われているからこそ、この差が生まれるのです。
水分と腎臓の深い関係
腎臓は水分バランスを絶妙に保つ名人です。
水分を多くとった日は薄い尿がたくさん出て、脱水状態のときは濃い尿が少しだけ出ます。
逆に――
水分不足が続くと、腎臓に負担がかかり血液の“掃除”がうまくできなくなります。
朝一番の尿が濃い黄色のときは「少し脱水気味です」というサイン。
こまめに飲むことは、腎臓への最高のプレゼントなのです。
ストレスと腎臓はどう関係する?
実は、ストレスが強いと腎臓にも負担がかかります。ストレスを受けると交感神経が働き、血管が収縮し、腎臓へ流れる血液量が減ります。その結果、尿の量が減る、老廃物がたまりやすくなる、むくみやすくなる、といった変化が起きます。
逆にリラックスして副交感神経が働くと、腎臓への血流が良くなり、ろ過がスムーズに進みます。深呼吸やぬるめのお風呂、散歩などでリラックスすることは、腎臓の「働きやすい環境」をつくることでもあるのです。
腎臓を守る生活習慣
腎臓はとても働き者ですが、一度傷むと元に戻りにくい臓器でもあります。そのため、日頃のケアがとても大切です。
① 水をこまめに飲む・・・「のどが渇いたと感じる前に飲む」が理想です。
② 塩分を控える・・・塩分のとりすぎは腎臓の負担になり、血圧も上がりやすくなります。
③ 体を冷やさない・・・腎臓は血流で働く臓器。冷えると働きが鈍くなります。
④ ストレスをためない・・・副交感神経が優位な状態をつくることで、腎臓の血流が改善します。
⑤ 定期的な健康チェック・・・尿検査や血液検査で腎機能を確認することは、早期発見につながります。
まとめ:腎臓は体の“静かな守り手”
腎臓はあまり存在感を主張しない臓器ですが、実は体内の「調和」を保つ重要な守り手です。
尿をつくるという一見シンプルな役割の裏には、水分、塩分、血圧、血液、骨、心の状態にまで影響を与える複雑で巧妙な仕組みが隠されています。
今日も腎臓は、あなたの体のために静かに働いています。その存在に少し感謝しながら、できるだけ負担を減らす生活を続けていきたいですね。
なお、この解剖生理学シリーズは連続ではなく、他の医療・福祉や生活に役立つテーマの記事も挟みながら進めていきます。そのため「ちょっと間が空いたけれど、次のテーマがきた!」という感覚で、気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。





