アルデバラン

一般社団法人アルデバラン

感覚統合とは② 〜とても大切な3つの感覚とは?〜

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約6分

私たちの身体には、外の世界から情報を取り込む五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)以外にも、“内側から”働いている感覚が存在します。

それが、前庭感覚(ぜんていかんかく)固有受容感覚(こゆうじゅようかんかく)、内臓感覚(ないぞうかんかく)の3つです。

これらは「見えない感覚」と呼ばれますが、私たちが姿勢を保ち、動きをコントロールし、自分の状態を把握して生活するうえで、欠かすことのできない感覚です。特に、発達に特性のある子どもたちにとっては、これらの感覚がうまく働かないことで日常生活に困難を感じることがあります。

今回は、この“見えない3つの感覚”に注目し、それぞれの働きや感覚統合との関係、感覚の偏りがあるとどのような行動や困りごとにつながるのかを、わかりやすく解説していきます。

【1】前庭感覚 ― バランスと動きの感覚

前庭感覚とは、私たちの身体が「どちらに傾いているか」「どれくらいの速さで動いているか」「止まっているのか動いているのか」といった情報をキャッチする感覚です。耳の奥にある三半規管と耳石器(じせきき)という器官がこの感覚を担っています。

前庭感覚が担う役割

  • 姿勢を安定させる
  • 身体のバランスを保つ
  • 動きの加減やスピードを調整する
  • 空間での自分の位置を把握する

前庭感覚の不調がもたらす困りごと

  • すぐにふらついたり転んだりする
  • ジャンプや回転などの刺激を求めて常に動き回る
  • 揺れに過敏で乗り物酔いしやすい
  • 頭を動かすのが怖く、運動を嫌がる

たとえば、前庭感覚が鈍い場合には、「じっとしていられない」「動きすぎてしまう」などの多動傾向が見られることもあります。一方で、過敏な場合には、「少しの揺れでも不快」「運動が苦手」といった特徴が出てきます。

【2】固有受容感覚 ― 自分の体の動きや力加減を感じる感覚

固有受容感覚とは、筋肉や関節、腱から送られてくる情報によって、自分の体が今どのような状態にあるかを感じ取る感覚です。私たちはこの感覚のおかげで、目で見なくても腕や足の位置、動かし方、力の入れ具合などをコントロールできています。

固有受容感覚が担う役割

  • 姿勢を保つ
  • 力加減を調整する
  • 自分の身体の位置を把握する
  • スムーズな運動を可能にする

固有受容感覚の不調がもたらす困りごと

  • 筆圧が強すぎたり弱すぎたりする
  • 物を落としやすい、つかみにくい
  • よく転んだりぶつかったりする
  • 人との距離感がつかめない(近づきすぎてしまう)

この感覚に課題があると、「物を上手につかめない」「身体の位置が分からず落ち着かない」「自分の力加減が分からず乱暴に見えてしまう」といった行動が見られます。実際には本人が“乱暴”なのではなく、「どのくらいの力を使えばいいのか分からない」状態なのです。

【3】内臓感覚 ― 自分の身体の内側を感じる感覚

    内臓感覚とは、空腹感、喉の渇き、便意・尿意、痛みや不快感といった体内の変化を感じ取る感覚です。これは、自律神経系とも密接に関わっており、心身の安定にも影響を与えます。

    内臓感覚が担う役割

    • 空腹や満腹、のどの渇きを感じる
    • 体のだるさや疲れをキャッチする
    • 排泄のタイミングを感じる
    • 不快感を自覚して対処する

    内臓感覚の不調がもたらす困りごと

    • 空腹や満腹が分かりにくく、食事に興味を持ちにくい
    • トイレのタイミングが分からず失敗してしまう
    • 疲れやだるさをうまく表現できない
    • 体調不良を訴えることができず、周囲が気づきにくい

    「トイレに行きたがらない」「体調が悪くても無理をしてしまう」「すぐに疲れてしまう」といった行動には、内臓感覚の問題が背景にあることもあります。子どもたちが感じている“内なる不快感”を大人が察知するには、この感覚について知っておくことが不可欠です。

    感覚は目に見えないからこそ、理解が必要

    前庭感覚・固有受容感覚・内臓感覚はいずれも、外からは“見えない”感覚です。そのため、子どもたちが困っていても「怠けている」「甘えている」「落ち着きがない」と誤解されやすいのが現実です。

    しかし、感覚の統合がうまくいかないことで、本人が無意識のうちに困っていることが多いのです。たとえば、椅子にじっと座っていられない子には、もしかすると前庭感覚や固有受容感覚の偏りがあるかもしれません。トイレの失敗を繰り返す子には、内臓感覚の捉えにくさが隠れているかもしれません。

    これらを「しつけの問題」「努力不足」と片づけるのではなく、「感覚の特性かもしれない」と気づける大人が増えることは、子どもにとって大きな安心につながります。

    まとめと次回予告

    今回は、「見えにくいけれどとても大切な感覚」として、前庭感覚・固有受容感覚・内臓感覚の3つに注目しました。

    これらの感覚は、姿勢を保ち、動きを調整し、体調を把握しながら生活するうえで欠かせないものです。しかし、目に見えないために見過ごされやすく、結果的に子どもたちの困りごとが深刻化してしまうこともあります。

    大切なのは、“行動の背景には理由がある”という視点を持つこと。感覚の特性を理解し、寄り添った関わりを心がけることで、子どもたちはより安心して、のびのびと過ごすことができます。

    次回の【感覚統合を知るシリーズ③】では、これまで紹介してきた五感と“見えない感覚”が、脳の中でどのように組み合わさり、子どもの行動や感情、学びにどのように影響しているのかを解説していきます。さらに、感覚統合の課題に気づいたときに、周囲の大人がどのような支援ができるのか、具体的なヒントもお伝えします。

    見えない感覚に気づき、子どもたちの「困りごと」を正しく理解するためのシリーズ。ぜひ最終回もお楽しみに。

    『センサーキッズ』絵本のご紹介

    ~感覚の“ちがい”がわかる、子どもと大人をつなぐ一冊~

    感覚統合は子どもたちの生活に深く関わる大切なテーマです。
    その感覚統合を、子どもたち自身にわかりやすく、楽しく伝えるために誕生したのが、絵本『センサーキッズ』です。

    この絵本では、4人のキャラクターが登場し、それぞれ異なる“感覚のちがい”をもっています。
    音にびっくりしたり、動くことが好きだったり、服の肌ざわりが苦手だったり――。そんな子どもたちの「困りごと」には理由があるということを、ストーリーを通して優しく伝えます。

    🔹 自閉症や発達障がいのあるお子さん
    🔹 感覚に敏感だったり落ち着きにくいお子さん
    🔹 保護者や教育者、療育・医療に携わる方

    すべての方に知ってほしい「感覚の世界」が、ここにあります。

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