アルデバラン

一般社団法人アルデバラン

感覚統合とは①  〜「五感」のはたらきを知る〜 

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約8分

この「感覚統合を知るシリーズ」では、3回にわたって私たちの体に備わる感覚と、それらがどのように統合されているのかをわかりやすく解説していきます。

第1回となる今回は、私たちが日常的に使っている「五感」=視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚に注目し、それぞれの感覚がどのような働きをしているのか、そして感覚の統合がうまくいかないときにどのような「困りごと」が起こるのかを、具体的な事例とともに紹介します。

次回【シリーズ②】では、「前庭感覚(バランスや重力を感じる感覚)」「固有受容感覚(筋肉や関節の動きを感じる感覚)」「内臓感覚(空腹や便意、体内の不快感をキャッチする感覚)」といった身体の内側からの感覚を掘り下げていきます。

そして最終回【シリーズ③】では、これら8つの感覚がどのように統合され、子どもたちの行動や感情、学び、生活にどのように影響しているのか、また、感覚統合がうまくいかないときにどのような特徴が見られるのかを整理し、周囲の大人ができる具体的なサポートの工夫についてご紹介します。

このシリーズが、感覚の「見えない困りごと」に気づくための第一歩となり、子どもたちに寄り添うきっかけになれば幸いです。

今回は「五感」に注目して解説します

この「感覚統合シリーズ」では3回にわたり、感覚統合をわかりやすく解説していきます。初回となる今回は、より身近な 「五感」 に注目し、それぞれの感覚がどのような働きをしているのか、また、それが統合できていないとどのような困りごとが起こるのかを、具体例を交えながら説明します。

感覚統合を知ることは、子どもたちの感じ方・困りごとを理解する大きなヒントになります。どうぞ最後までお付き合いください。

【1】視覚 ― 世界を「見る」感覚 

視覚は、目から入ってくる光の情報をもとに、「ものがどこにあるか」「動いているかどうか」「色・形・大きさ」などを認識する感覚です。 

● 視覚が担う役割 

文字を読む、黒板を見る 

表情を読み取る 

空間を把握してぶつからないように動く 

視覚は学習にも、対人関係にも、運動にも深く関係しています。特に教室という場面では、視覚情報が正確に処理できないと、学習に遅れが生じやすくなります。 

● 視覚の感覚統合がうまくいかないと… 

黒板の字を写すのに時間がかかる 

図形の模写や折り紙が苦手 

物をよく落とす、ぶつかる 

視力そのものに問題がなくても、脳で視覚情報を処理する過程に難しさがあると、こうした課題が現れます。 

【2】聴覚 ― 音を「聞く」感覚 

聴覚は、耳から入る音の情報を処理し、「どこから」「どんな音が」「どのくらいの大きさで」聞こえてくるかを認識する感覚です。 

● 聴覚が担う役割 

人の声や話を聞き分ける 

騒音の中でも必要な情報だけを聞き取る 

音で危険や安心を察知する 

会話の理解や、指示への反応などにも関わる重要な感覚です。 

● 聴覚の感覚統合がうまくいかないと… 

小さな音に強く反応してしまう(聴覚過敏) 

反対に、大きな音にも無反応(聴覚鈍麻) 

音が混ざって聞こえる(聴覚フィルターが弱い) 

たとえば教室で話していても、隣のクラスの音や空調の音が気になって集中できない子もいます。聴覚の敏感さや鈍感さには個人差があり、その感覚特性に応じた配慮が必要です。 

【3】嗅覚 ― においを「かぐ」感覚 

嗅覚は、鼻から入るにおいの情報を処理し、「快・不快」「危険・安全」を判断する感覚です。 

● 嗅覚が担う役割 

食べ物の良し悪しを判断する 

においで感情が引き起こされる(リラックス、不安など) 

煙やガスなど、危険を察知する 

人間の嗅覚は、記憶や感情と強く結びついています。あるにおいをかぐことで、過去の体験や感情が蘇ることもあります。 

● 嗅覚の感覚統合がうまくいかないと… 

香水や食べ物のにおいが強すぎてパニックになる 

においに過敏で外出できない 

においに気づかないため、危険を察知できない 

日常生活において「においのトラブル」は意外と多く、周囲が気づかない苦痛を抱えていることもあります。 

【4】味覚 ― 味を「感じる」感覚 

味覚は、舌にある味蕾(みらい)で甘味、塩味、酸味、苦味、うま味といった味を感じ取り、食べ物の内容や安全性を判断する感覚です。 

● 味覚が担う役割 

美味しさを感じる 

有害なものを避ける(苦味=毒の可能性) 

食べ物への興味や食習慣の形成 

味覚は「食べること」を楽しむために不可欠な感覚であり、偏食や食への拒否感とも深く関わります。 

● 味覚の感覚統合がうまくいかないと… 

偏食が極端で特定の食材しか食べられない 

食感や温度に強いこだわりがある 

食事の時間に強いストレスを感じる 

これらは「わがまま」ではなく、「感覚による困りごと」としてとらえる必要があります。 

【5】触覚 ― 皮膚で「感じる」感覚 

触覚は、皮膚に触れる刺激を通じて「硬い・柔らかい」「熱い・冷たい」「痛い・かゆい」といった情報を得る感覚です。感情の安定にも密接に関わっています。 

● 触覚が担う役割 

衣類や気温への快・不快を判断する 

手先を使って物を感じ取り、操作する 

人とのふれあいで安心感を得る 

触覚は「安心」や「危険」を知らせてくれる警報機のような役割を果たしています。 

● 触覚の感覚統合がうまくいかないと… 

洋服のタグや縫い目が我慢できない 

皮膚に触れると痛みを感じる 

抱っこや手をつなぐことを嫌がる 

一方で、逆に強い刺激を求めて人や物に乱暴に触れる子どももいます。これも触覚のアンバランスによる表現のひとつです。 

感覚統合と五感のバランス 

これらの五感が正しく統合されることで、私たちは「安心して周囲と関われる」「必要な情報だけを選んで処理できる」「感情を安定させられる」といった力を得られます。 

しかし、発達の特性によってこの統合がうまくいかないと、音やにおい、肌ざわりといったものに対して過剰に反応したり、逆に鈍感だったりするため、日常生活でさまざまな困難を感じることになります。 

まとめと次回予告

私たちは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚といった五感を通じて、世界の情報を受け取りながら生きています。これらの感覚がバラバラに働くのではなく、脳の中でうまく「統合」されているからこそ、私たちはスムーズに生活することができるのです。

しかし、感覚統合のプロセスがうまくいかないと、「見えていてもわからない」「聞こえていても集中できない」「触られると不快」など、私たちには見えにくい“感覚のズレ”が子どもたちの中に起こります。

このズレにいち早く気づき、正しく理解することは、子どもたちの「困りごと」を支える大きな一歩です。

次回の【感覚統合とは②】では、「見えにくい3つの感覚」=前庭感覚(バランスや動きの感覚)、固有受容感覚(身体の位置や力加減の感覚)、内臓感覚(体内の状態を察知する感覚)に注目します。

これらの感覚は、行動や情緒、学習などに深く影響しながらも、外からはわかりにくいため、支援の遅れや誤解を招くことが少なくありません。

感覚の仕組みを知ることで、「なぜこの子はこう感じるのか」「どう支えたらよいのか」が見えてくるはずです。どうぞお楽しみに。

『センサーキッズ』絵本のご紹介

~感覚の“ちがい”がわかる、子どもと大人をつなぐ一冊~

感覚統合は子どもたちの生活に深く関わる大切なテーマです。
その感覚統合を、子どもたち自身にわかりやすく、楽しく伝えるために誕生したのが、絵本『センサーキッズ』です。

この絵本では、4人のキャラクターが登場し、それぞれ異なる“感覚のちがい”をもっています。
音にびっくりしたり、動くことが好きだったり、服の肌ざわりが苦手だったり――。そんな子どもたちの「困りごと」には理由があるということを、ストーリーを通して優しく伝えます。

🔹 自閉症や発達障がいのあるお子さん
🔹 感覚に敏感だったり落ち着きにくいお子さん
🔹 保護者や教育者、療育・医療に携わる方

すべての方に知ってほしい「感覚の世界」が、ここにあります。

📘 ご購入はこちらから

『センサーキッズの冒険』は現在、以下の健療出版公式ウェブサイトよりご購入いただけます。

ぜひ、ご家族や教育現場での読み聞かせにご活用ください。

https://kenryo.base.ec/items/105758274

また現在Amazonでの販売に向けた準備も進めており、順次取り扱いを開始いたします。


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