日本の通常学校における発達障害を持つ児童生徒への支援体制は、特別支援教育の理念の普及とともに進化してきました。文部科学省の最新の調査(2022年)によると、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合は約8.8%と推計されており、適切な支援体制の構築が急務となっています。本記事では、通常の学校において発達障害を持つ子どもを支援する教員や専門職に必要な資格や要件について、小学校を中心に整理します。
1. 通常学校における発達障害支援の体制
通常学級に在籍する発達障害児への支援は、主に以下のような専門職が担当します:
- 特別支援教育コーディネーター
- スクールカウンセラー(SC)
- スクールソーシャルワーカー(SSW)
- 特別支援教育支援員(学習支援員)
- 通級指導教室担当教員
これらの専門職は、それぞれ異なる役割を担いながら、発達障害児の学校生活を支えています。
2. 小学校における発達障害児支援者の資格要件
(1)特別支援教育コーディネーター
- 国家資格: なし
- 取得要件と必要年数:
- 教員免許が必要(小学校・中学校・高等学校いずれかの教員免許)
- 校長が教員の中から任命(特別な資格取得の必要なし)
- 多くの自治体で専門研修あり(任命後に受講)
- 専門性の内容:
- 発達障害児の支援計画作成、関係機関との連携調整
- 校内の教職員・保護者への支援提供
- 特別支援教育の理解を深めるための研修企画・運営
- 通常の学級での指導支援の充実
- 個別の指導計画・教育支援計画の作成・活用の推進
(2)スクールカウンセラー(SC)
- 国家資格: あり
- 公認心理士(国家資格)
- 臨床心理士(民間資格、公的認定あり)
- 取得要件と必要年数:
- 公認心理士の場合:大学4年+大学院2年または実務経験2年、計6年程度
- 臨床心理士の場合:大学4年+指定大学院2年、計6年程度
- 専門性の内容:
- 児童・教職員・保護者への心理的サポート
- 心理カウンセリング、情緒・行動問題の対応
- 不登校、いじめ、ストレス管理の支援
(3)スクールソーシャルワーカー(SSW)
- 国家資格: あり
- 社会福祉士(国家資格)
- 精神保健福祉士(国家資格)
- 取得要件と必要年数:
- 社会福祉士の場合:大学4年
- 精神保健福祉士の場合:大学4年または短大卒+実務経験1-2年
- 専門性の内容:
- 児童の福祉的支援(虐待・貧困・家庭問題への対応)
- 教員・福祉機関・保護者との連携
- 家庭訪問、福祉サービスの紹介、ケース会議の実施
(4)特別支援教育支援員(学習支援員)
- 国家資格: なし
- 取得要件と必要年数:
- 多くの自治体では、教員免許、保育士資格、介護福祉士などの資格を持つ応募者を優先的に採用
- 採用後、自治体研修(数日~数週間)を受講
- 専門性の内容:
- 児童の学習・生活支援、教員補助
- 通常学級や特別支援学級での個別指導
- 児童の情緒ケア、合理的配慮の実践
(5)通級指導教室担当教員
- 国家資格: なし(教員免許必須)
- 取得要件と必要年数:
- 小学校教諭免許状保有
- 特別支援教育に関する専門性(研修や経験による)
- 専門性の内容:
- 発達障害のある児童への専門的な指導
- 通常の学級担任との連携
- 個別の指導計画の作成と実施
3. 今後の課題と展望
(1) 支援人材の専門性向上
現在、日本の学校では発達障害児支援の専門職が配置されていますが、その専門性の統一基準がなく、地域や学校によって支援の質にばらつきが生じています。文部科学省は「小学校発達障害通級指導教室担当者等育成事業」を実施し、通常の学級の担任教員を含む教職員の専門性向上を図っています。
(2) 安定した雇用と待遇改善
多くの支援職は非常勤や非正規雇用であるため、長期的な支援体制を維持するのが難しい現状があります。発達障害児支援の充実には、安定した雇用制度の確立と待遇の向上が不可欠です。
(3) インクルーシブ教育システムの推進
日本では「特別支援教育」と「通常教育」の連続性を重視したインクルーシブ教育システムの構築が進められています。これには、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった多様な学びの場の整備が含まれます。文部科学省は「交流及び共同学習」を推進しており、通常学級と特別支援学級の児童生徒が一緒に学ぶ機会を増やしています。
(4) 発達障害通級指導教室の充実
発達障害通級指導教室は、通常の学級に在籍する発達障害のある児童生徒に対して、きめ細やかで専門的な指導・支援を行う重要な場です。これらの教室の増設と質の向上が求められています。
4. おわりに
日本の通常学校における発達障害児支援は、様々な専門職の協働によって進められていますが、資格要件の標準化や人材不足の課題も存在します。今後、支援の専門性を高めるための研修制度整備や、支援者の待遇改善が求められています。
また、インクルーシブ教育システムの構築に向けて、通常の学級担任の専門性向上や多様な学びの場の整備が重要です。すべての子どもが自らの可能性を最大限に発揮できる教育環境の実現に向けて、引き続き取り組みが必要です。