アルデバラン

一般社団法人アルデバラン

認知症ケアにおけるACP(Advance Care Planning)

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日本の高齢化と認知症の現状

日本は世界でも類を見ない超高齢社会となり、認知症高齢者の数は年々増加しています。認知症はもはや「国民病」とも呼ばれ、私たちの社会生活において避けて通ることのできないテーマとなっています。そのような中、医療や看護、介護の現場では、認知症を抱える人々に対する意思決定支援がますます重要視されています。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、認知症ケアにおいて特に重要な役割を果たします。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。特に認知症のように進行性の疾患においては、本人が意思を明確に表明できる時期が限られるため、早期からのACPの導入が求められます。

認知症ケアにおけるACPの特徴

長期的なケアを視野に入れる必要性

認知症ケアにおけるACPの特徴の一つは、その対象期間が非常に長いということです。認知症の初期段階から終末期まで、さまざまな意思決定が必要となります。たとえば、軽度認知障害(MCI)の段階では、生活支援や日常の注意事項が中心ですが、進行するにつれて、治療方針や療養場所の選択、最終的には終末期ケアの内容まで広がります。

意思決定の複雑さ

認知症の進行に伴い、意思形成や表明が徐々に困難になります。軽度の段階で示された希望が、後の状況で適切でなくなることもあります。そのため、ACPは一度作成して終わりではなく、継続的に見直し、更新していくことが必要です。

家族や支援者の役割

認知症の進行により、本人が意思決定を行うことが難しくなると、家族や代理人が重要な役割を果たします。ただし、家族もまた高齢であったり、介護に疲弊していたりする場合が多いため、彼らを支えるための体制づくりも欠かせません。

ACPの進め方とタイミング

診断時からのアプローチ

認知症のACPは、診断時から始めるのが理想的です。この段階では、本人が比較的意思表明を行いやすいため、価値観や希望を具体的に引き出すことが可能です。ただし、日本では認知症の診断を本人に告知しないケースも多く、この点は慎重に対応する必要があります。

医療・介護の転機を捉える

診断時にACPを開始できなかった場合でも、骨折や感染症など、医療や介護の転機となる出来事をACP開始のきっかけにすることができます。例えば、介護サービスの導入や病院受診のタイミングで、本人や家族の希望を丁寧に聞き取り、将来のケアプランにつなげることが重要です。

継続的な見直し

認知症は進行する疾患であるため、ACPも継続的に見直す必要があります。本人の状態や生活環境が変化するたびに、プランを更新し、常に本人にとって最善の選択ができるようにすることが求められます。

認知症に特有の意思決定支援のポイント

本人の意思を引き出す

認知症の方が意思決定を行える段階では、可能な限り本人の考えを引き出すことが重要です。そのために、以下のような工夫が役立ちます。

1.理解しやすい言葉で説明し、質問を簡潔にする。

2.絵や写真などの視覚的な補助を活用する。

3.時間をかけて繰り返し話し合い、意思を確認する。

家族や支援者との連携

家族はしばしば認知症ケアにおける主要な意思決定者となりますが、家族にとってもその役割は心理的負担が大きいものです。そのため、「もしもご本人がこの状況にあったら、どのように考えると思いますか?」といった形で問いかけ、家族が代弁者としての役割を果たしやすくするサポートが必要です。

「医療行為」と「生活の質」のバランス

認知症ケアでは、医療行為の選択だけでなく、生活の質(QOL)を維持するための支援が欠かせません。たとえば、過剰な治療を避ける一方で、快適な日常生活を送れるような環境整備を進めることが重要です。

感染症や摂食嚥下障害への対応

認知症の方々が直面しやすい問題の一つに、感染症や摂食嚥下障害があります。これらは本人の健康状態を著しく悪化させるだけでなく、家族や支援者にとっても大きな負担となります。

  • 感染症の予防と治療の方針
    繰り返し発症する肺炎などに対し、治療の目的をQOLの向上に置くべきか、それとも延命を目指すべきかなど、その方の意思や家族の想い、年齢や様々な人的・物的環境などを含め多角度から慎重に検討します。
  • 経口摂取が困難になった場合の対応
    胃瘻や経管栄養の選択肢について、本人や家族の価値観を尊重しながら議論します。欧米では経管栄養を選択しないケースが主流となっており、日本でも同様の議論が進んでいます。

多職種連携の重要性

認知症ケアにおけるACPを成功させるには、多職種が連携して情報を共有し、継続的な支援を行うことが欠かせません。医師、看護師、介護職員、リハビリ職など、それぞれが専門的な視点を持ちながらも、一つのチームとして連携することで、本人にとって最善のケアが実現します。

また、在宅、病院、施設といった異なる場での情報共有も重要です。ACPの内容や過程を記録し、次のケア提供者に確実に引き継ぐ仕組みが求められます。

おわりに

認知症ケアにおけるACPは、本人と家族が安心して過ごせる環境を整えるための重要なプロセスです。早期からの支援を通じて、本人の意思や価値観を丁寧にくみ取り、最善の選択を導き出すことが求められます。

この記事が、ACP支援に携わるすべての方々の参考となり、認知症ケアの質を向上させる一助となれば幸いです。これからも、多職種が連携し、垣根を越えて支援をつないでいくことが重要です。

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