アルデバラン

一般社団法人アルデバラン

介護現場での葛藤  ~高齢者の尊厳を守るとは~

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私は看護師となり37年間、医療現場、介護現場で仕事をしてきました。介護現場にいた20年間は、介護スタッフの教育、現場の業務改善、高齢者ケアの在り方、終末期のケア、そして意思決定支援について学び、知識を深め実践してきました。しかし、ここ数年、ヨーロッパの介護施設視察を行う中で、日本の介護の現実は厳しく、私たちが目指すべき「高齢者の尊厳を守るケア」ができていないのではないかという思いが募ります。

介護職の労働環境

超高齢者社会となり、看護師だけではケアしきれない、また生活を中心とした総合ケアが求められる中で介護士という仕事が生まれました。2000年に介護保険が制定された際、介護福祉士の資格を取って現場に出てきた介護士たちには、活気があり介護業界の未来に明るい夢や希望を頂いていました。しかし、介護職の労働環境は年々厳しくなってきているように思います。

介護現場は、日々深刻な課題に直面しています。人員不足が慢性化している中で、厚生労働省から求められる書類の多さや複雑さに多くの時間を取られ、実際に介護を行う時間が削られているのが現状です。これに加えて、介護報酬は減少し、賃金の上昇もほとんどないという悪循環が続いており、介護職の労働環境はますます過酷なものとなっています。

多くの施設では、少ない人数で多くの利用者を担当せざるを得ないため、ケアの質が低下し、高齢者へのサービスが十分に提供できていないのが現実です。介護職は長時間労働を強いられ、心身ともに疲弊し、モチベーションが低下している職員も少なくなく、これがさらに人手不足を引き起こし、退職者の補充も難しい状況を生んでいます。結果、施設は限られたリソースで運営され、ケアの質がさらに低下するという悪循環に陥っています。介護職の労働環境が改善されない限り、この状況は続き、ますます厳しくなることが予想されます。

高齢者の尊厳を守るとは

高齢者が自分の意思で生活できる環境を整えることが重要であることは、誰もが理解しています。しかし、現在の介護現場では、高齢者一人ひとりのニーズに十分に応えることができていないのが現実です。限られた人手と時間の中で、個別のケアが不足し、結果的に高齢者の生活の質が低下しているように思います。

例えば、食事は決められた時間に食べなければなりません。食事の選択の自由もありません。集団生活ですから仕方ないという面もありますが、介護スタッフや厨房職員の都合が優先されてしまう現実があります。

数年前に視察したフィンランドの介護施設では、外部の方も利用できるブッフェ形式のレストランで食事が提供されていました。レストランがオープンしている時間であれば、好きな時間に利用することができますし、好きなものを好きな量だけ食べられます。スタッフもその時間に合わせられる時間があるのです。日本ではなかなかこのようにはいきません。

高齢化社会が進行し、認知症を抱える高齢者や終末期にある高齢者がますます増えている中で、介護職は限られた人数で対応しなければならない現実に直面しています。日々の業務に追われ、個々の高齢者のニーズに十分に応えることができず、ケアの質を維持することが困難な状況です。

このような状況が20年以上変わらず、むしろ悪化していることは、私たちにとって深刻な問題です。介護を受ける高齢者は、身体的なケアだけでなく、精神的な支援や社会参加の機会が必要不可欠です。尊厳を持って生活できる環境を整えるためには、まず制度の改革が必要であり、現場の環境改善が急務となっています。現場で働く介護職がより良い環境で働けるよう支援することが、質の高いケアに直結するからです。 

また、介護職そのものの魅力を高めるための施策も重要です。労働環境の改善、賃金の引き上げ、キャリアパスの明確化など、介護職に対する理解と支援が求められます。しかし、これらの施策を実現するためには、国や社会全体の意識改革が不可欠です。介護職が社会的に評価されることで、質の高いケアが提供され、介護者自身もやりがいを感じ、より多くの人材がこの業界に参加することができます。

尊厳を守るケアとは

私たちが目指すべきは、高齢者と介護者が共に尊厳を持って生活できる社会です。高齢者のケアは、単なるサービス提供にとどまるものではなく、その人の人生に深く関わり、尊重すべき重要な役割を担っています。尊厳を守るケアとは、身体的なケアを超えて、その人自身の価値観、意志、そしてライフスタイルを尊重し、最期までその人らしい生き方を支えることです。これは、単なる業務として行うものではなく、患者一人ひとりの人生に寄り添い、心からの支援を行うことが求められます。

尊厳を守るケアは、身体的なニーズを満たすことだけにとどまらず、その人がどのように感じ、何を望み、どのように生きてきたのかということにまで配慮するものです。例えば、食事の時間や方法、生活環境の整備、そして交流の場の提供など、一つ一つのケアがその人の人生の一部として重要であることを理解し、それを尊重することが大切です。高齢者が持つ人生観や価値観を尊重し、時にはその意志に従い、選択を尊重することは、ケア提供者にとって大きな責任でもあります。

さらに、心理的・社会的な側面にも十分な配慮をすることが求められます。高齢者は身体的な衰えに加えて、孤立感や不安を抱えがちです。これらの心理的な負担を軽減するために、ケアの中で心のケアを取り入れることが大切です。例えば、温かな対話を通じて不安を和らげたり、趣味や社会活動を通じて社会的なつながりを維持することが、精神的な健康を保つために非常に効果的です。また、選択肢を提供し、自己決定権を尊重することで、生活の質を向上させ、彼らが感じる満足感を高めることができます。

尊厳を守るケアは、単なる仕事の範囲を超えた深い責任を伴います。これは、他者の人生に大きな影響を与える仕事であり、その責任感が私たちにとって重要です。そして、この考え方は介護の現場に留まらず、社会全体で共有すべき価値観です。全ての高齢者が尊厳を持ち、安心して暮らせる社会を実現するためには、介護職の責任感と共に、社会全体の支援と理解が必要です。高齢者のケアは一人の介護職だけでなく、社会全体で支え合いながら実現するものだと考えています。

おわりに 

高齢者の尊厳を守るためには、現状の課題を解決するための具体的なアプローチが必要です。まずは、介護職の待遇改善や労働環境の整備が求められます。また、地域社会との連携を強化し、ボランティア活動を通じて高齢者を支える体制を構築することも重要です。

私たちが目指すべきは、高齢者と介護職が共に尊厳を持って生活できる社会です。

私たちが直面している課題を乗り越え、高齢者の尊厳を守るために、共に支え合う社会を築いていけることを信じ、自分のできることから実行していきたいと思います。

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