今日は、私が約30年あまりにわたって経験してきた高齢者の意思決定支援、特に認知症高齢者の意思決定支援の難しさについてお話ししたいと思います。
終末期において食事が食べられなくなった場合の対応については、数多くの症例とご家族の葛藤を見てきました。この経験を通じて感じたことを共有し、皆さんの参考になればと思います。
認知症高齢者の意思決定支援の現実
認知症の方は症状が進行すればするほど、自分自身で意思決定をすることが難しくなります。認知症の方の終末期において、老衰が進行し徐々に食事が食べられなくなる、または誤嚥性肺炎や感染症などをきっかけに食事が食べられなくなる場合があります。このような状況下でどう対応するかという問題に直面することはよくある話です。
認知症に限らず高齢者が食事を摂れなくなった場合、主に以下の選択肢が考えられます。①自然に食べられるだけの量を食べて、食べられなくなったら自然に任せる。②点滴を実施する(長期的に可能な持続点滴)③胃ろう(胃に直接チューブから栄養を流す)
認知症の多くのケースは、ご本人による意思表示できないため、家族が代わりに意思決定をしなければなりません。しかし、この決定は非常に難しく、家族にとって大きな精神的負担となることが多いのです。
家族の葛藤と意思決定の難しさ
私は、家族がどのように決定を下すか、その過程を数多く見てきました。家族間で話し合っても結論が出ないケース、決定に時間がかかるケース、決定が何度も変わるケースなど、様々な葛藤を目の当たりにしてきました。これらの葛藤は、家族にとって大きなストレスとなり、時には家族間の関係にも影響を与えることがありました。
ACPの重要性
このような経験から学んだ最も重要な教訓の一つは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)が大切であるということです。ACPは、本人が意思決定できなくなる前に、家族や医療チームと事前に話し合っておくプロセスです。これにより、本人の希望や価値観を尊重したケアを提供することが可能になります。
ACP利点
ACPには次のような利点があります。
①家族の負担軽減(事前に話し合っておくことで、家族が悩むことなく、本人の希望に沿った決定を下すことができます。)
②医療チームとの円滑なコミュニケーション(ACPを通じて、医療チームが本人の希望を理解し、適切なケアを提供することができます。)
③自己決定権の尊重(本人がどのようなケアを望むかを明確にすることで、緊急時にもその意思が尊重されます。)
おわりに
家族が直面する意思決定の難しさや精神的な負担は深刻であり、その決定を支えるためには、事前にACP(アドバンス・ケア・プランニング)を行うことが極めて重要です。ACPを通じて、本人の希望や価値観を明確にし、医療チームや家族が一体となって適切なケアを提供できる環境を整えることが可能です。
終末期ケアにおいては、延命治療よりも本人の自然な死を尊重するケアが求められる現代の動向もあります。これにより、家族と医療チームがより良いコミュニケーションを図り、本人の尊厳を保ちながら最善のケアを追求することが可能となります。
認知症高齢者の終末期における意思決定支援は、医療のみならず社会全体の関心事でもあります。今後もこのテーマについて情報を共有し、より良いケア環境の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。