感覚統合がうまくいかないときに見られる特徴と、私たちにできる支援とは?
感覚統合をテーマに、3回にわたってお届けしてきたこのシリーズの最終回となりました。
第1回では「五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)」について、
第2回では「身体の内側からの感覚(前庭感覚・固有受容感覚・内臓感覚)」について、
それぞれの感覚が果たす役割や、統合がうまくいかない場合に起こる「困りごと」を紹介してきました。
今回は、それら8つの感覚が「どう組み合わさり、統合されているか」、そして「統合の困難さがどんな行動や生活のしづらさにつながるのか」、さらに「私たち周囲の大人がどのような支援や工夫ができるのか」について、わかりやすく整理していきたいと思います。
1. 感覚は“チームワーク”で働いている
私たちは、視覚・聴覚・触覚など、ひとつひとつの感覚を“個別”に感じ取っているわけではありません。実は、これらの感覚は常に“協力し合い”、脳の中でまとめられて、適切な反応や行動を生み出しています。
たとえば、こんな場面を想像してみてください。
あなたは友達とカフェで話しています。コーヒーの香り(嗅覚)を感じながら、会話の声(聴覚)に耳を傾け、相手の表情(視覚)を見て、カップを持ち上げて口に運ぶ(固有受容感覚と触覚)。

この一連の動作は、五感+身体感覚が見事に“統合”されているからこそ、違和感なく自然にできているのです。
しかし、感覚統合に困難がある場合、この“チームワーク”がうまくいかず、以下のようなことが起こります。
- 会話の音が周囲の音と混ざって聞こえて集中できない(聴覚の統合が難しい)
- 自分の手足の位置感覚がわからず、よくぶつかったり、筆圧が安定しない(固有受容感覚の問題)
- 香りが気になって不快感を覚え、集中できない(嗅覚過敏)
これは単に「不器用」とか「落ち着きがない」といった問題ではなく、感覚の受け取り方や処理のしかたに特性がある、ということなのです。
2. 感覚統合の問題が引き起こす困りごと
感覚統合に課題がある子どもたちは、さまざまな困りごとを日常生活の中で抱えています。
■ 行動のコントロールが難しい
- 座っていられず立ち上がる、動き回る
- 姿勢を保てない(椅子からずり落ちる、体が斜めになる)
- 指示に従えないように見える(実は聞こえにくい、集中できない)
■ 情緒が安定しにくい
- 些細な刺激に強く反応する(音、光、匂いなど)
- 触られることを嫌がる、人混みを避ける
- 刺激を求めて体を揺らしたり、ジャンプを繰り返す
■ 対人関係に影響が出る
- 他人との距離感がわからず、ぶつかったり近づきすぎたりする
- 表情や感情の読み取りが難しい(視覚処理の問題)
- グループ活動が苦手、コミュニケーションに疲れてしまう
これらは「わざとやっている」「躾がなっていない」わけではありません。その子の中にある「感覚のつまずき」が、行動として現れているのです。
3. 周囲にできること ― サポートのヒント
感覚統合の課題に対する支援は、“特別な療育”だけではありません。家庭や学校、地域の中でもできる工夫がたくさんあります。
① 環境調整で刺激を減らす
- 音が気になる子には、静かな場所やノイズキャンセリングイヤホンを使う
- 光がまぶしい子には、自然光中心の環境やサングラスの活用
- 匂いが気になる子には、無香料の洗剤やシンプルな食事
② 感覚刺激の“選び方”に気を配る
- 固有受容感覚が弱い子には、重いリュックやバランスボールを使った遊び
- 前庭感覚が苦手な子には、ブランコやトランポリンなどの揺れ刺激
- 触覚が敏感な子には、タグのない衣服や好きな素材の肌着を
③ 「困りごと」の背景を共有する
- 「この子は触覚が敏感で、制服が苦手なんです」と担任の先生に伝える
- 支援者や療育者と、日々の様子を記録しながら共有する
「気になる行動」には必ず理由があります。大人がその背景に目を向けることこそが、最大のサポートになるのです。
4. 感覚統合の支援は“共感”から始まる
大切なのは、「この子には困りごとがあるんだ」と理解しようとする姿勢です。
感覚統合に困難がある子どもたちは、自分の不快感や戸惑いをうまく言葉にできないことが多く、それが“わがまま”や“反抗”と誤解されがちです。
でも実際は、「誰かにわかってほしい」「このつらさを伝えたい」と必死にサインを出しているのです。
たとえば・・・
- 洋服を脱ぎたがる → 「触覚が不快なんだな」
- 食べ物を吐き出す → 「味覚や匂いに過敏なのかもしれない」
- 落ち着かず動き回る → 「前庭感覚の調整が難しいのかな」
こうした視点を持てるだけで、子どもへのまなざしは大きく変わります。
5. 感覚統合は「育つ力」
感覚統合は、決して生まれつき“できる/できない”が決まっているわけではありません。
成長の中で育まれ、経験によって洗練されていく“発達する力”なのです。
だからこそ、「苦手だからダメ」ではなく、「得意な方法で伸ばしていく」という支援の視点が大切です。
- 揺れる遊びでバランス感覚を育てる
- 体を使った遊びで身体感覚を高める
- 自分の感覚に気づく手助けをする
小さな気づきが、その子の大きな自信と安心につながります。
6. 最後に:感覚を「理解する社会」へ
この3回にわたるシリーズを通して、感覚統合という言葉の奥にある「子どもたちの感じ方」「困りごと」「支援の視点」を少しでもお伝えできていたら嬉しく思います。
感覚の問題は目に見えないからこそ、見逃され、誤解されやすいものです。ですが、こうした知識が広がれば、子どもたちはもっと安心して過ごせるようになります。
私たち大人ができるのは、正しく知り、理解し、寄り添うこと。
その一歩が、すべての子どもたちにとっての“安心の土台”になるのです。

『センサーキッズ』絵本のご紹介
~感覚の“ちがい”がわかる、子どもと大人をつなぐ一冊~
感覚統合は子どもたちの生活に深く関わる大切なテーマです。
その感覚統合を、子どもたち自身にわかりやすく、楽しく伝えるために誕生したのが、絵本『センサーキッズ』です。
この絵本では、4人のキャラクターが登場し、それぞれ異なる“感覚のちがい”をもっています。
音にびっくりしたり、動くことが好きだったり、服の肌ざわりが苦手だったり――。そんな子どもたちの「困りごと」には理由があるということを、ストーリーを通して優しく伝えます。
🔹 自閉症や発達障がいのあるお子さん
🔹 感覚に敏感だったり落ち着きにくいお子さん
🔹 保護者や教育者、療育・医療に携わる方
すべての方に知ってほしい「感覚の世界」が、ここにあります。
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