厚生労働省の統合医療サイトより、統合医療に含まれる以下の20の治療法を順番に解説しておりました。今回が最後となります。
①鍼治療(Acupuncture) ②抗酸化物質(Antioxidants)③アーユルヴェーダ医学(Ayurvedic Medicine)④カイロプラクティック(Chiropractic)⑤ホメオパシー(Homeopathy)⑥マッサージ療法(Massage Therapy)⑦瞑想(Meditation)⑧自然療法(Naturopathy)⑨経口プロバイオティクス(Oral Probiotics)⑩太極拳(Tai Chi)⑪ヨガ(Yoga)⑫脊椎マニピュレーション(Spinal Manipulation)⑬レイキ(霊気)(Reiki)⑭リラクゼーション法(Relaxation Techniques)⑮アロマセラピー(Aromatherapy)⑯催眠療法(Hypnosis)⑰気功(Qigong)⑱心身療法(Mind and Body Practices)⑲リフレクソロジー(Reflexology)⑳中国伝統医学(Traditional Chinese Medicine)
これらの治療法は、現代医学と組み合わせて使用され、患者の全体的な健康と福祉をサポートすることを目的としています。今回は⑳中国伝統医学(Traditional Chinese Medicine)についてご紹介します。
中国伝統医学(Traditional Chinese Medicine)――「気・血・水」でととのえるからだの知恵
古代中国に起源をもつ「中国伝統医学(TCM: Traditional Chinese Medicine)」は、数千年にわたり体系化されてきた医学であり、現代でも東アジアを中心に広く活用されています。
「気」「血」「水」「五臓六腑」「経絡」など独自の概念と理論に基づき、病気の予防や治療、健康維持を目指す方法です。
日本でも、鍼灸(しんきゅう)や漢方薬などを通じて馴染みがあるこの医学ですが、その全体像を理解している人は多くはないかもしれません。
今回は、そんな中国伝統医学の基本理論や療法、現代における活用方法についてわかりやすく解説します。
1. 中国伝統医学とは?
中国伝統医学は、古代中国の自然哲学や経験に基づいて発展した、総合的な医療体系です。
その基本的な考え方は、人体を「自然の一部」としてとらえ、外的環境との調和や、体内のバランスを重視するところにあります。
**「治す」だけでなく、「整える」「未病を防ぐ」**という思想が中心にあるため、病気の予防や日々の体調管理にも重点が置かれます。
2. 基本概念:「気・血・水」のバランス
中国伝統医学では、体内のエネルギーや物質の流れを次の三要素で表します。
● 気(き)
生命活動を支えるエネルギー。呼吸・食事・睡眠などによって生み出されます。
→ 疲れやすい、やる気が出ないなどは「気虚(ききょ)」と呼ばれます。
● 血(けつ)
血液のように考えられますが、栄養と潤いを全身に届ける「滋養の力」としての概念です。
→ 貧血や肌の乾燥、不眠などは「血虚」とされます。
● 水(すい)
体内の水分やリンパ、涙、唾液などを指し、「体を潤す・排出する」役割を持ちます。
→ むくみ、冷え、痰などは「水滞(すいたい)」によると考えられます。
これらのバランスが崩れることで、体調不良が生じるとされており、治療や養生(ようじょう:健康を保つための工夫)はこれらの調整を目的としています。
3. 陰陽と五行:自然とのつながり
中国伝統医学の中核をなす思想として、「陰陽(いんよう)」と「五行(ごぎょう)」という自然哲学があります。
● 陰陽
すべてのものは「陰」と「陽」に分けられるという考え方。
陰=静、寒、暗、水、夜 | 陽=動、熱、明、火、昼 など。
体が冷えて眠れない → 陽の不足
のぼせて汗が止まらない → 陰の不足
このように、バランスの偏りを診断のヒントにします。
● 五行
「木・火・土・金・水」の5つの要素が自然や臓器、人の性質に影響するという考え方。
- 肝(木)…怒り、目、筋
- 心(火)…喜び、舌、血脈
- 脾(土)…思い悩み、口、消化
- 肺(金)…悲しみ、鼻、皮膚
- 腎(水)…恐れ、耳、骨
これにより、症状の背後にある「感情や生活習慣」も含めてトータルに考えます。
4. 中国伝統医学の代表的な療法
① 漢方薬(中薬)
自然由来の植物・動物・鉱物などを組み合わせた処方薬です。
西洋薬のように単一成分ではなく、全体的な体質や状態に合わせて処方されます。
「葛根湯」「補中益気湯」など日本でも多く用いられています。
② 鍼灸(しんきゅう)
ツボ(経穴)に鍼やお灸で刺激を与え、「気の流れ」を調整します。
肩こりや腰痛、冷え症、自律神経の不調、婦人科疾患など、幅広い症状に対応。
日本では国家資格(はり師・きゅう師)が必要とされる専門技術です。
③ 推拿(すいな)
中国式の手技療法。日本の指圧や整体に似ていますが、経絡に基づいた技法が特徴です。
④ 食養生・生活指導
「医食同源」の考え方に基づき、体質に合わせた食材や季節ごとの食事を大切にします。
また、睡眠・運動・気候への対応なども重視されます。
5. 現代の医療・福祉での活用
中国伝統医学は、現代医療と異なる視点からのアプローチでありながら、補完的な医療として非常に有効とされています。
厚生労働省の「統合医療」紹介ページでも、鍼灸や漢方が紹介されています。
● 高齢者福祉領域での活用例
- 食欲不振や便秘に対する漢方
- 睡眠障害に対する鍼治療
- 関節のこわばりに対する推拿(マッサージ)
- 認知症周辺症状への穏やかなアプローチ
● 緩和ケア・がん治療との併用
- 副作用軽減
- 不安・痛みの緩和
- 疲労や抑うつへの対応
6. 中国伝統医学の魅力と今後
中国伝統医学の魅力は、「全体を見る視点」と「個人に合わせた対応」にあります。
西洋医学では見落とされがちな「体質」や「心の状態」まで診ていくアプローチは、特に慢性的な症状や原因不明の不調に悩む方にとって大きな支えとなる場合があります。
一方で、その理論は経験則や哲学に基づく部分も多く、現代科学との乖離もあります。
今後は、エビデンス(科学的根拠)の整理や、安全性の確保、専門家による適切な活用が課題です。
まとめ
中国伝統医学は、「気・血・水」「陰陽」「五行」といった独自の理論に基づき、からだ全体のバランスを整えることで、健康を維持し病を防ぐ医学体系です。
漢方薬や鍼灸、食養生といった多彩な療法があり、現代の医療や介護の現場でも補完療法として注目されています。
「自分の体と、じっくり向き合う」。
そんな丁寧な医療のあり方が、中国伝統医学の根底には流れています。
現代人の私たちこそ、こうした古の知恵から学ぶことがたくさんあるのではないでしょうか。