この連載では、次のようなテーマを一つひとつ掘り下げてきました。今回は⑨「免疫と防御〜身体を守る見えない軍隊」についてです。
- 呼吸のふしぎ ― 酸素と二酸化炭素の物語
- 心臓と血管 ― 24時間働き続けるポンプ
- 消化の冒険 ― 食べ物がエネルギーになるまで
- 脳と神経 ― 私たちの「司令塔」
- 交感神経と副交感神経 ― 自律神経のバランス
- 筋肉と骨 ― 体を動かす精密な機械
- 尿ができるまで ― 腎臓の小さなろ過装置
- ホルモンと内分泌 ― 体内のメッセンジャー
- 免疫と防御 ― 体を守る見えない軍隊
- まとめ編:体を知ることは自分を大切にすること
私たちの体には「軍隊」がいる
私たちは、風邪をひいたとき、熱が出たり、喉が痛くなったりしますよね。
「体調が悪くなった」と感じるその裏側では、実は体の中で激しい戦いが起こっています。
ウイルスや細菌などの“外敵”が侵入すると、体はすぐにそれを察知し、排除しようとします。
この防御システムこそが免疫(めんえき)です。
免疫は目に見えませんが、24時間 体の中を巡回している「見えない軍隊」のような存在。
私たちが健康でいられるのは、この軍隊が休まず働いているからなのです。
第一の防御線 ― 侵入させない
実は、免疫の戦いは体の“外側”から始まっています。
- 皮膚はバリアとなり、病原体の侵入を防ぐ
- 鼻毛や粘膜は異物をキャッチする
- 胃酸は多くの細菌を殺す
つまり、体はまず「入れない」仕組みを持っています。
この段階で防げれば、私たちは何も感じずに過ごせます。
しかし、それでも侵入を許してしまった場合、次の防御が始まります。
第二の防御線 ― 自然免疫
体の中に侵入した異物に対し、まず働くのが自然免疫です。
自然免疫は、生まれつき備わっている防御システム。
代表的なのは「白血球」の仲間たちです。
- マクロファージ:敵を食べる掃除係
- 好中球:最前線で戦う兵士
- NK細胞:異常な細胞を見つけて攻撃
これらは侵入者を見つけると、素早く攻撃し、炎症を起こします。
発熱や腫れ、赤みは、実はこの戦いのサイン。
「熱が出る=悪いこと」と思いがちですが、熱は体がウイルスと戦っている証でもあるのです。
第三の防御線 ― 獲得免疫
自然免疫で対処しきれない場合、より精密な防御システムが動きます。
それが獲得免疫です。
獲得免疫は、一度出会った敵を覚え、次に備える仕組みです。
中心となるのは・・・
- B細胞
- T細胞
B細胞は「抗体」という特別なタンパク質を作ります。
抗体は、侵入者にピタリと結合し、攻撃しやすい目印をつけます。
一方、T細胞は“指揮官”や“特攻隊”のような存在です。
T細胞にはいくつか種類があります。
- ヘルパーT細胞:免疫全体に「攻撃せよ」と指令を出す司令塔
- キラーT細胞:ウイルスに感染した細胞やがん細胞を直接攻撃する戦闘部隊
ヘルパーT細胞は、B細胞に抗体を作るよう指示を出したり、他の免疫細胞を活性化させたりします。
キラーT細胞は、すでに体内に入り込んでしまったウイルス感染細胞を見つけ出し、ピンポイントで破壊します。
つまり――
- B細胞は「目印をつける専門家」
- T細胞は「指揮をとり、実際に戦う部隊」
この連携プレーによって、私たちの体は精密に守られているのです。この記憶機能のおかげで、
同じ病原体に再び出会っても、体は素早く対応できます。
免疫は強すぎても困る?
「免疫は強ければ強いほどいい」と思われがちですが、実はそうではありません。
免疫が過剰に働くと・・・
- アレルギー
- 自己免疫疾患
などが起こります。
花粉症は、本来無害な花粉に対して免疫が過剰反応している状態です。
自己免疫疾患では、体が自分自身を敵と誤認して攻撃してしまいます。
免疫にとって大切なのは、「強さ」よりもバランスなのです。
ストレスと免疫の関係
強いストレスが続くと、ストレスホルモン(コルチゾール)が増え、免疫の働きが抑えられます。
その結果・・・
- 風邪をひきやすくなる
- 傷の治りが遅くなる
- 疲れが抜けにくくなる
逆に、リラックスしているとき、副交感神経が優位になり、免疫の働きが安定します。
笑うこと、安心できる人との会話、深呼吸・・・
これらは免疫にとって最高のサポートなのです。
腸と免疫の深い関係
実は、体の免疫細胞の約70%は腸に集まっているといわれています。
なぜ腸なのでしょうか?
それは、腸が「外の世界」と直接つながっている場所だからです。
食べ物と一緒に、私たちは毎日たくさんの細菌やウイルスを体内に取り込んでいます。
腸はその最前線。まさに“国境警備隊”のような役割を担っているのです。
腸の壁には「腸管関連リンパ組織」と呼ばれる免疫の拠点があり、
そこで免疫細胞たちは、
- これは安全なものか
- これは排除すべき敵か
を日々判断しています。
ここで重要な働きをしているのが、腸内細菌です。
腸内細菌は単なる“住人”ではありません。
彼らは免疫細胞に対して、
「これは無害ですよ」
「これは危険ですよ」
と教える“教育係”のような存在です。
腸内環境が整っていると、免疫は必要なときだけ適切に反応します。
しかし腸内細菌のバランスが崩れると、
- 過剰反応(アレルギー)
- 反応不足(感染しやすい)
といったアンバランスが起こりやすくなります。
つまり、腸は免疫の「司令学校」のような場所なのです。
発酵食品や食物繊維が勧められる理由
発酵食品(ヨーグルト、味噌、納豆など)には、善玉菌やその働きを助ける成分が含まれています。
食物繊維は、腸内細菌のエサとなり、善玉菌を増やす手助けをします。
善玉菌が増えると、短鎖脂肪酸という物質が作られます。
この短鎖脂肪酸は、腸の粘膜を強くし、炎症を抑え、免疫のバランスを整える働きを持っています。
つまり・・・
発酵食品や食物繊維は、
「腸を元気にする」だけでなく、
「免疫の教育環境を整える」ことにつながっているのです。
腸が元気であることは、免疫が安定していること。
免疫が安定していることは、体全体が安心して働けるということなのです。
免疫を整える生活習慣
- 十分な睡眠
- バランスのよい食事
- 適度な運動
- 日光を浴びる
- ストレスを溜め込まない
どれも特別なことではありません。「生活の基本」が、そのまま免疫を支えているのです。
まとめ:体はあなたを守ろうとしている
免疫は、私たちが意識しなくても、常に体を守っています。発熱も、炎症も、だるさも、すべては体の防御反応。
「体調が悪い」と感じたとき、
それは体が一生懸命戦っているサインかもしれません。
どうか自分の体を責めず、
「ありがとう、頑張ってくれているんだね」といたわってください。
次はいよいよシリーズ最終回、
「まとめ編:体を知ることは自分を大切にすること」 です。




