アルデバラン

一般社団法人アルデバラン

不思議いっぱい!からだのしくみを知ろう ⑤交感神経と副交感神経 ― 自律神経のバランス

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約6分

これからの連載では、次のようなテーマを一つひとつ掘り下げていきます。

  1. 呼吸のふしぎ ― 酸素と二酸化炭素の物語
  2. 心臓と血管 ― 24時間働き続けるポンプ
  3. 消化の冒険 ― 食べ物がエネルギーになるまで
  4. 脳と神経 ― 私たちの「司令塔」
  5. 交感神経と副交感神経 ― 自律神経のバランス
  6. 筋肉と骨 ― 体を動かす精密な機械
  7. 尿ができるまで ― 腎臓の小さなろ過装置
  8. ホルモンと内分泌 ― 体内のメッセンジャー
  9. 免疫と防御 ― 体を守る見えない軍隊
  10. まとめ編:体を知ることは自分を大切にすること

今回はその第5回、「交感神経と副交感神経 ― 自律神経のバランス」 についてです。

24時間働き続ける「自律神経」

私たちの体は、眠っている間も、仕事中も、緊張しているときも、常に体の中のバランスを保っています。
たとえば・・・

  • 寒いときは体温を上げようと震える
  • 食後には消化のために胃腸の動きが活発になる
  • 危険を感じると心臓がドキドキ速くなる

これらはすべて、「自律神経」が自動的に働いているおかげです。

自律神経は、私たちの意思とは関係なく体の状態を整えてくれるシステム。そしてその中核を担うのが、「交感神経」と「副交感神経」という2つの神経です。まるで車のアクセルとブレーキのように、お互いがバランスを取り合いながら体を調整しています。

交感神経 ― 活動モードのスイッチ

交感神経は「戦う神経」とも呼ばれます。外で活動するとき、緊張しているとき、集中しているときに活発になります。

たとえば・・・

  • 心拍数が上がり、血圧が上昇する
  • 瞳孔が広がり、目がよく見えるようになる
  • 呼吸が速くなり、筋肉に酸素を多く送る
  • 消化器の働きは一時的にストップ

これは、原始時代の人間が「敵と戦う」「逃げる」といった状況に対応するために発達した生存システムの名残です。現代の私たちはライオンに追われることはありませんが、仕事の締め切りや人間関係のストレスで、脳は同じように“戦闘モード”に切り替わります。

一時的なら問題ありませんが、交感神経が長く優位な状態が続くと、体は疲れ切ってしまいます。これが「ストレス過多」や「自律神経の乱れ」と呼ばれる状態です。

副交感神経 ― 休息と回復のスイッチ

一方で、副交感神経は「休む神経」。心と体をリラックスさせ、エネルギーを回復させる働きをします。

  • 心拍数が下がる
  • 呼吸がゆっくりになる
  • 血圧が安定する
  • 胃腸の動きが活発になり、消化が進む

夜、眠くなってきたときや、お風呂に入ってホッとしたとき、好きな音楽を聴いてリラックスしているとき――そんなときに副交感神経が働いています。

つまり、交感神経が「外向きのエネルギー」なら、副交感神経は「内向きの回復エネルギー」。
この2つがシーソーのようにバランスを取ることで、心身の健康が保たれているのです。

現代人の悩み ― 「交感神経が優位なまま」

現代社会では、多くの人が交感神経が優位な状態のまま過ごしています。仕事のプレッシャー、長時間のスマホやパソコン、常に届く通知、そして夜遅くまでの明るい照明。
私たちの脳は「戦う時間」と「休む時間」をうまく切り替えられなくなっています。

その結果、こんな症状が現れます。

  • 眠りが浅い、寝つきが悪い
  • 肩こりや頭痛が続く
  • 胃腸の不調(便秘・下痢)
  • 動悸や息切れ、手足の冷え
  • 気分の落ち込み、集中力の低下

これらの多くは、病気というより「自律神経の乱れ」によるものです。

自律神経を整える ― 日常でできる習慣

難しいことをしなくても、ちょっとした工夫で自律神経のバランスは取り戻せます。

① 深呼吸をする

ゆっくり息を吸い、長く吐く。吐く息を意識的に長くすることで、副交感神経が刺激され、心が落ち着きます。緊張する場面や寝る前の数分間、ぜひ試してみてください。

② 朝日を浴びる

朝起きたらカーテンを開けて光を浴びましょう。体内時計がリセットされ、交感神経が自然にオンになります。夜は照明を落として、体を「休息モード」に導くことも大切です。

③ 食事のリズムを整える

食事は副交感神経を働かせるチャンスです。よく噛み、ゆっくり食べることで消化器の働きが促され、心も落ち着きます。スマホを見ながらの食事は、交感神経を刺激するので注意しましょう。

④ 適度な運動

ウォーキングやストレッチは、血流を整え、神経のバランスを回復させます。「少し息が弾む程度」がちょうど良い強さです。

⑤ 笑う・話す・泣く

感情を素直に表現することも大切です。笑うとき、涙を流すとき、副交感神経が働きます。人とのつながりや安心感は、脳のストレス反応をやわらげます。

自律神経は「揺れていていい」

よく「自律神経を整える」と聞きますが、実は完璧に整える必要はありません。交感神経と副交感神経は、1日の中で何度もゆらぎながら働いています。朝は交感神経が活発になり、日中は活動モード。夜は副交感神経が優位になり、体がリラックスして眠りにつく。
この自然なリズムを取り戻すことこそ、本当の「整える」ということです。

そのためには、「頑張りすぎない」「休むことを悪いと思わない」ことが何より大切。体が発する小さなサインに気づき、「今は少しブレーキを踏もう」と思えることが、自律神経との上手な付き合い方です。

心と体はつながっている

自律神経の働きは、心の状態にも大きく関係しています。ストレスを感じたとき、心だけでなく体も反応します。逆に、体をゆるめることで心が穏やかになることもあります。

「なんだか最近疲れやすい」「気持ちが落ち着かない」、そんなときは、心の問題だけでなく、自律神経が少し乱れているのかもしれません。体のケアと心のケアは、実はひとつのことなのです。

バランスが整うと、人生も整う

交感神経と副交感神経は、どちらが良い・悪いではありません。動くときにしっかり動き、休むときにしっかり休む、その切り替えができているとき、私たちは一番健やかでいられます。

「最近、頑張りすぎているな」と思ったら、少し立ち止まりましょう。ゆっくり深呼吸をして、温かいお茶を飲む。そんな小さな時間が、自律神経を整える最高の薬です。

なお、この解剖生理学シリーズは連続ではなく、他の医療・福祉や生活に役立つテーマの記事も挟みながら進めていきます。そのため「ちょっと間が空いたけれど、次のテーマがきた!」という感覚で、気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。

次回は第6回、「筋肉と骨 ― 体を動かす精密な機械」
私たちが「立つ」「歩く」「抱きしめる」といった動作が、どのようなメカニズムで起こっているのか・・・体の「動きのしくみ」を一緒に探っていきましょう。

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