アルデバラン

一般社団法人アルデバラン

スヌーズレン療法とは? 〜優しい光と音のアプローチ〜

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発達障がいの子どもたちと「感覚統合」に与える優しい光と音のアプローチ

近年、発達障がいや感覚統合の課題を持つ子どもたちの支援において注目されている療法のひとつが「スヌーズレン療法」です。柔らかな光、心地よい音、香り、触覚的な刺激など、五感をやさしく包み込むような空間で過ごすこの療法は、特別支援教育や福祉の現場、さらには自宅でのリラクゼーションにも応用されはじめています。

「スヌーズレン」という言葉は、日本ではまだ広く知られているとは言えませんが、オランダ発祥のこの療法は、今や世界中の発達障がい支援の現場で活用されています。今回は、スヌーズレン療法の成り立ちからその効果、実際の活用事例までを、感覚統合の視点からわかりやすく解説していきます。

1. スヌーズレン療法とは何か?

スヌーズレン(Snoezelen)とは、オランダ語の「スヌーフェレン(くんくん匂いを嗅ぐ)」と「ドゥーズレン(うとうと眠る)」を組み合わせた造語です。その名の通り、スヌーズレンは「心地よく感覚を刺激し、リラックスする」ことを目的とした療法です。

1970年代にオランダで、知的障がいのある子どもたちのために考案され、その後ヨーロッパを中心に広まりました。現在では発達障がい、高齢者、認知症、重度心身障がいのある方々、精神的に不安定な方など、幅広い対象者に対して導入されています。

スヌーズレンルームと呼ばれる専用の空間では、次のような感覚的な刺激が用意されます:

  • 視覚刺激:色とりどりのライト、ファイバーオプティック、プロジェクション映像など
  • 聴覚刺激:やさしい音楽、自然音、リズム音など
  • 嗅覚刺激:アロマや心地よい香り
  • 触覚刺激:ふわふわしたマット、柔らかなぬいぐるみ、ひんやりした感触のビーズなど
  • 前庭感覚・固有感覚刺激:スイングチェアやクッション、バランスボールなどでの揺れや圧力

これらの刺激は、一方的に与えるものではなく、「その人が求める感覚」を中心に、自ら選び・感じるという能動的な体験を促します。ここにスヌーズレン療法の大きな特長があります。

2. 発達障がいと感覚統合の関係

発達障がいを持つ子どもたちは、「感覚統合」に課題を抱えることが多くあります。感覚統合とは、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった五感に加え、「前庭感覚(バランス)」や「固有受容感覚(身体の位置や動きの感知)」を脳で適切に整理・処理し、生活行動に活かす力のことです。

しかし感覚統合がうまくいかないと、以下のような困りごとが日常で現れます:

  • 音に過敏で騒がしい場所を嫌う
  • 光がまぶしすぎて目をそらしてしまう
  • 洋服のタグがチクチクして着られない
  • 落ち着きがなく、椅子にじっと座っていられない
  • 揺れや回転を極端に嫌がる、あるいは逆に強く好む

これらは決して「わがまま」や「育て方のせい」ではなく、脳の感覚処理のしくみに由来する“感じ方の違い”です。

3. なぜスヌーズレン療法が感覚統合支援に効果的なのか?

スヌーズレン療法が発達障がいのある子どもたちに適している理由は、「選べる」「安心できる」「感覚に優しい」空間である点にあります。

自分で選べるから、主体性が育つ

多くの感覚統合アプローチは、課題に対して「こうしなさい」「これをやりましょう」と指示することがあります。もちろん訓練としては必要ですが、それが負担になる子どももいます。

一方、スヌーズレンでは「なにを、どのくらい、どのように感じるか」を、子ども自身が選ぶことができます。自分の感覚にあった刺激を自分のペースで受け入れることで、安心感と自己選択の感覚が育まれ、結果として自己調整力の向上にもつながります。

安心できる空間が、感覚のバランスを整える

感覚に過敏な子どもは、日常生活の中で常に「緊張」状態にさらされています。大きな音、まぶしい光、周囲のざわつき……これらが脳を疲弊させ、不安やパニックを引き起こす要因になります。

スヌーズレンルームは、音も光も、感覚のすべてが「心地よさ」を基準にデザインされており、安心して自分の感覚と向き合える空間です。その結果、交感神経と副交感神経のバランスが整い、自律神経の安定にも寄与します。

繰り返し体験が「感覚統合」を助ける

子どもたちが好きな感覚刺激を繰り返し体験することで、「この感覚は心地いい」「これは大丈夫」「こうすれば落ち着く」という感覚の整理が進み、感覚統合の力が少しずつ育っていきます。

4. 実際のスヌーズレンの現場とその効果

スヌーズレンは現在、日本でも少しずつ普及しています。特別支援学校や放課後等デイサービス、医療機関、保育施設などで導入されており、実際に以下のような変化が報告されています。

  • パニックの回数が減った
  • 登校前の不安が軽減し、自分から「スヌーズレン行きたい」と言うようになった
  • 家庭でのかんしゃくが減った
  • コミュニケーションへの意欲が少しずつ出てきた

もちろん、すべての子どもにすぐに効果が出るわけではありません。しかし、何よりも大切なのは、「その子の感じ方に寄り添う」という姿勢です。

5. 家庭でもできる“ミニ・スヌーズレン”のすすめ

本格的なスヌーズレンルームは専門機関に限られますが、家庭でも簡易的にスヌーズレン的な環境をつくることは可能です。

  • 小さなテントの中にクッションを敷いて落ち着くスペースを作る
  • 間接照明やランプを使って柔らかい光を演出する
  • 好きな香りのアロマをほんのり香らせる
  • ノイズキャンセリングのヘッドホンで静かな時間を確保する
  • ゆったりしたリズムの音楽や自然音を流す

こうした環境を「安心できる避難場所」として子どもに提供するだけでも、日々の緊張をゆるめることにつながります。

6. まとめ:スヌーズレン療法がもたらすもの

スヌーズレン療法は、発達障がいを持つ子どもたちにとって「感覚の安全地帯」となり、心と体を整えるサポートになります。そしてそれは、単なる療法ではなく、「感じ方の違いを尊重する社会づくり」の第一歩でもあります。

子どもたちの「ちょっと違う」感じ方に目を向け、否定するのではなく、まず「わかろうとする」姿勢を私たち大人が持つこと。それこそが、共に生きるための土台になるはずです。

スヌーズレン療法の可能性はまだまだ広がっています。これからも、その優しい光が多くの子どもたちの心に届くことを願ってやみません。

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