なぜ今、学校で注目されているのか
作業療法士(OT)が学校教育にどのように関わることができるのか。
その問いに対する一つの明確な答えとして、近年注目されているのが
「CO-OP(コアップ)アプローチ」です。
CO-OPは、子どもが自分で目標を立て、作戦を考え、実行し、振り返るというプロセスを繰り返しながら、「できなかったこと」を「できること」へと変えていく支援方法です。
ここで大切なのは、答えを教えることではなく、考え方を育てること。
CO-OPは、「指導法」や「訓練メニュー」というよりも、子どもが学び続けるための“思考の型”を育てるアプローチだと言えます。
CO-OPは、カナダの“切実な教育課題”から生まれた
CO-OPアプローチは、決して机上の理論から生まれたものではありません。
背景にあったのは、カナダで年々増加していたDCD(発達性協調運動障がい:Developmental Coordination Disorder)の子どもたちの存在でした。
DCDのある子どもは、知的な遅れがないにもかかわらず、
- 文字を書くのが極端に遅い
- 体育の動きをうまく真似できない
- ハサミや定規、ノート操作が苦手
- 身支度や片づけに時間がかかる
といった困難を日常的に抱えています。
本人は一生懸命なのに、成果として見えにくいため、
- 「不注意」
- 「やる気がない」
- 「努力が足りない」
と誤解されやすく、自己肯定感を大きく下げてしまうケースが多くありました。
カナダでは、こうした子どもたちが学年が上がるにつれて学習意欲を失い、学校から距離を取っていく現実が社会的な課題として強く認識されていました。
国が求めたのは「訓練」ではなかった
この問題に対して、カナダ政府が選んだ道は意外なものでした。それは、「もっと練習させる」「訓練を増やす」ことではなく、
子ども自身が、困ったときに自分で乗り越えられる力を育てること
でした。そこで国は、作業療法士の専門団体に対し、学校という場で実際に使える、新しい支援アプローチの開発を正式に依頼します。
こうして生まれたのが、CO-OP(Cognitive Orientation to daily Occupational Performance)
「日常活動の遂行に向けた、認知的な方向づけ」を意味するアプローチです
「できるようにする」よりも、「考えられるようにする」
CO-OPの核となる考え方は、とてもシンプルです。
① Goal(目標を決める)
「何ができるようになりたい?」
これは大人が決める目標ではありません。本人にとって意味のある目標であることが重要です。
② Plan(作戦を考える)
「どうやったら、できそうかな?」
ここでOTや教師は、答えを教えません。ヒントを出し、問いを投げ、考える時間を待ちます。
③ Do(やってみる)
実際に試してみる。失敗しても構いません。むしろ、失敗は大切な材料です。
④ Check(ふり返る)
「うまくいった?」「どこが難しかった?」
成功も失敗も言語化し、次の作戦につなげます。
このサイクルを繰り返すことで、子どもは徐々に、
- 自分のつまずきに気づく力
- 工夫する力
- 振り返って修正する力
を身につけていきます。
CO-OPが学校全体に広がっていった理由
CO-OPは、当初DCDの子どもを対象に開発されました。しかし実践が進むにつれて、その効果は特定の子どもだけに留まらないことが明らかになっていきます。
- 学習につまずく子
- 集団行動が苦手な子
- 失敗を極端に怖がる子
- 指示待ちになりがちな子
さらには、すべての子どもにとって有効な「学びの基盤」であることが見えてきたのです。
その結果、カナダではCO-OPは個別支援の枠を超え、
- 教員研修
- 学校文化
- 授業設計
へと広がっていきました。
「特別な支援」ではなく、「質の高い学び」
CO-OPが示しているのは、「支援が必要な子を助ける方法」だけではありません。
それは、子どもが自分で学び続ける力をどう育てるかという、教育の本質的な問いです。
うまくいかないときに、
- 「できないからやめる」
- 「先生が答えを教える」
のではなく、
- 「じゃあ、どうしたらいい?」
- 「別のやり方はある?」
と考える文化を育てる。
それこそが、学校×OT×学びの質が交差する地点なのです。
ここで一番大切なこと
CO-OPアプローチで最も大切にされているのは、「本人が、自分で見つけること」
大人が整えすぎない。失敗を奪わない。考える時間を保証する。
作業療法士は、導く人ではなく、考えるプロセスに寄り添う伴走者です。
この視点は、
「できる・できない」で人を分ける教育から、「どうすれば、その人なりに前に進めるか」を支える教育へと、学校のあり方そのものを変えていく力を持っています。






