私たちが長年温めてきたプロジェクト、「センサーキッズ(Sensokids)」日本語版の絵本が、ついに印刷工程へと入りました。完成は2025年4月下旬を予定しており、もうすぐ皆さまのお手元にお届けできる日がやってきます。
この絵本は、自閉症や発達障がいのある子どもたちが持つ「感覚の特性」に焦点を当て、感覚統合というテーマを軸に展開される、楽しく学べる物語です。作業療法士である米国のドクター・リーマさんによって書かれ、現地アメリカでも多くの親子や教育者に支持されました。
今回、日本語版として制作するにあたり、ただ翻訳するのではなく、日本の子どもたちと保護者・教育者の皆さんに寄り添った表現や伝え方を心がけました。この絵本は、子どもだけでなく、家族や教育現場、福祉・医療関係者にも読んでいただきたい一冊です。
子どもも大人も一緒に読める「感覚の絵本」
『センサーキッズ』の最大の特徴は、「楽しく、わかりやすく、そして心に残る」感覚の世界を描いていることにあります。絵本には、異なる感覚特性を持つ4人のキャラクターが登場し、彼らの日常を通じて感覚統合の大切さや困難さが自然と伝わる構成になっています。
たとえば、音に敏感な子は「突然の大きな音にびっくりして泣いてしまう」、触覚が過敏な子は「服のタグがチクチクして着られない」など、現実に多くの子どもたちが抱える困難を優しく描写しています。そして、それらを否定するのではなく、「その感じ方には意味がある」と肯定的に伝えるストーリーになっています。
大人たちにとっても、この絵本は大きな気づきを与えてくれます。感覚過敏や鈍麻といった「見えにくい困難」に対して、「わがまま」や「しつけの問題」といった誤解が生じることは少なくありません。ですが、子どもの感覚世界に耳を傾けることで、「困った子」ではなく「困っている子」なのだと理解できるようになります。

感覚統合とは?7つの感覚を知ることの大切さ
感覚といえば、多くの人は「五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)」を思い浮かべるでしょう。けれど、私たちの体にはそれ以外にも重要な感覚があります。
• 前庭感覚(バランスや重力を感じる感覚)
• 固有受容感覚(自分の体の位置や動きを感じる感覚)
これらを含めた「7つの感覚」がスムーズに統合されているからこそ、私たちは日常生活を支障なく過ごすことができるのです。
しかし、発達障がいのある子どもたちの中には、これらの感覚の統合がうまくいかないことがあります。その結果、音に過敏になったり、逆に痛みに気づきにくかったり、体のバランスが取りづらくなったりするのです。
こうした感覚の困難は、外から見てもわかりづらいため、理解されにくいのが現状です。だからこそ、『センサーキッズ』のような絵本が必要なのです。感覚の違いを子どもにもわかる言葉で説明し、大人にもその世界を疑似体験させてくれる――それが、この絵本の真価です。
福田かおる衆議院議員との出会いと対話
絵本の完成を目前に控えたタイミングで、貴重なご縁にも恵まれました。先日、福田かおる衆議院議員とお会いし、発達障がい支援の現状や課題について意見交換をさせていただきました。
福田議員は、現場の声に深く耳を傾けてくださり、とりわけ感覚統合に関する教育的アプローチについて高い関心を示されました。『センサーキッズ』の意義や、子どもと社会をつなぐツールとしての可能性について説明したところ、大変強い共感を寄せていただきました。
絵本が完成した暁には、ぜひ議員にもお届けし、政策提言や啓発活動にも活用していただけたらと願っております。こうした一冊の絵本が、国会という舞台でも発達障がい支援の一助となることを、私たちは心から望んでいます。
絵本が伝えたいメッセージ:「子どもは困っている」
発達障がいの子どもたちの多くは、「困っている」ことをうまく伝えることができません。だからこそ、「困らせている」と誤解され、孤立してしまうこともあります。
この絵本は、子どもの「感じ方」に耳を傾けることの大切さを伝えています。
• 子どもたち自身が、自分の感覚特性を理解し、安心するために
• 保護者が、子どもの行動の背景を理解し、対応の工夫を学ぶために
• 教育者が、教室での配慮や声かけを考えるヒントとして
絵本を通じて、「わかってほしい」という子どもたちの願いが届き、周囲の人たちの意識が変わっていく。そんな“共感の連鎖”を広げていくことが、このプロジェクトの真の目的です。
教育と福祉の未来へ向けて
日本では今、発達障がいの診断件数が年々増加しており、教育現場や家庭での対応が課題となっています。しかし、感覚統合に関する知識を持つ専門家はまだ限られており、保護者の孤立や、現場の戸惑いが深刻化しています。
この絵本は、そんな状況を少しでも変えるための、小さな一歩です。「子どもたちの感じ方には理由がある」という視点を、もっと広く社会に届けたい。そのための第一歩が、この日本語版の出版です。
本という形をとることで、誰もが気軽に手に取れ、目に見える変化を社会にもたらすことができます。それは、教育や医療の現場だけでなく、家庭や地域社会の中でも「理解と共感の芽」を育てていくきっかけになると信じています。
終わりに――絵本の完成を待ちながら
いよいよ『センサーキッズ』日本語版が完成間近となりました。現在、印刷工程の最終段階にあり、4月下旬には完成した絵本を皆さまにお届けできる予定です。
これまで応援してくださった皆さま、制作にご協力いただいた全ての方々に、心より感謝申し上げます。この絵本が、発達障がいを持つ子どもたちや、その周囲の方々の心に届くことを、スタッフ一同願ってやみません。
絵本は、単なる「読み物」ではありません。それは、言葉にならない想いを伝える手段であり、人と人をつなぐ大切な架け橋です。『センサーキッズ』がそのような存在となることを願いながら、今後もこのプロジェクトの歩みを続けてまいります。

ぜひ、完成の際にはこのブログでも改めてご案内いたしますので、楽しみにお待ちいただければ幸いです。そして、お知り合いやご家族に発達障がいのあるお子さんがいらっしゃる方がいれば、ぜひこの絵本を届けてください。
“わかってもらえる”――その体験は、子どもにとって何よりの安心であり、未来への希望になるのです。
一般社団法人アルデバラン 発達障がい支援・感覚統合教育・医療と福祉の連携を推進しています。
(この記事は 2025年4月1日 現在の情報に基づいています)